第1章―会社設立編 第6話 株式口座開設 【1999年2月】
父さんが休みと言っていた火曜日がきた。俺はいつもより早めに起きた。はやる気持ちを抑えながら、まだ準備もしていないのんびり朝食を食べている父さんに話しかけた。
「父さん、早く行くよ。」
「おまえ休みなのに早く起きるな。」
「今どきの子供は休みのほうが早く起きるって知らないの?」
「子供はいいな。」
そこに関しては、子供も大人も休みのほうが早く起きる気がするけどなと思った。
「そんなこといいから、さっさと行くよ。」
「お前な。急いでも口座は逃げないぞ。とりあえず落ち着けって」
おれは父さんの準備を早くしてもらうように急かすように言った。急かされてものんびり動くのが大人である。
俺に急かされて、準備ができた父さんと家を出て車に向かって歩いた。駐車場まで少し歩くが、父さんの車をみた瞬間、懐かしさがこみ上げた。確か父さんの車はカローラだった。いつも家族みんなで遠出したな。高校になったらもう親の車には乗らなくなったけど、確かにこの車だった。
車に乗り込み助手席から外を見て、どの景色も懐かしいなと思いながら、どこまで走っても懐かしいものだらけだ。これが当たり前と思わないといつまでたっても懐かしいと言い続けなければいけない。
父さんに聞いたところ、名古屋駅に向かうとのこと。当時の名古屋駅は、まだ高島屋が入るツインタワーもなく、ただ人が多く出入りしている駅で、当時名古屋市の中心は栄・伏見であったと思う。この後数年で、名古屋駅はツインタワーができて高島屋が入って企業の多くが、事務所を名古屋駅に移転していくとは、当時のだれもが感じなかったし、これから名古屋駅中心に変わることになるとは言っても信じてくれないだろう。
混む事もなく名古屋駅に着いた。当時の証券会社の支店は、ネット間取引も少なく支店内には、お金を持っていそうなおじいさんがテレビやボードを見ながら雑談しており、多くの人でにぎわっていた。老後の憩いの場の1つなのかというぐらい雑然とした空間となっている。
そんな中、父さんと入店し窓口に歩いて行った。窓口にはきれいなお姉さんがこちらを見て話しかけてきた。
「どのようなご用件でございましょうか。」
「西区の梅田と申しますが私の担当の梶谷さんおりますか。少し呼んで来て頂けますか。」
父さんが丁寧な口調で受付のお姉さんに話しかけた。
「梶谷ですね。呼び出しますので少々お待ちください。」
お姉さんは手元にある電話機より内線電話をかけていた。父さんの担当と思われる梶谷さんと会話をしていた。
「お客様、梶谷が下りてきますので、奥の部屋で少々お待ち頂けますか。」
受付のお姉さんは、席を立ち父さんと俺を奥の個室に案内してくれた。
「父さん、担当なんてついていたんだ。そんなに株の運用しているの?」
「いや、担当って言っても会社が持ち株会をしていて口座作った時の担当だよ。だれでも担当は付くものであって。父さん自身そんなに株は持ってないし、運用なんてしないよ。」
父さんは、困った表情を浮かべながら答えた。そんな雑談をしていた時に階段を降りてくる音が聞こえ、少し恰幅のいい担当と思われるおじさんが降りてきて、父さんの前に座った。
「これは、俊和さんお待たせしました。本日のご用件は何でしょうか。」
「忙しい中すみません。息子が株取引をしたいというので口座を作ってもらいに来ました。」
「それはそれは、将来有望な投資家ですね。君は何歳だね。」
俺の方を見ながら、にこやかな笑顔で聞いてきた。
「18歳ですが、親と同伴であれば口座が作れると思い来社しました。口座が作った後ネットでの取引をしたいのですが問題ないでしょうか。」
「新規口座ね。わかりました準備しますね。後ネット取引か。全然問題ないよ。最近ネット取引も多くなったからね。僕みたいな営業担当も必要なくなるのかな。」
困った顔をしながら、新規口座の用紙を取り出しながら話し始めた。
「ネット取引は今後大きくなると思います。ネットで取引ができる事によって証券取引所の取引株数も飛躍的に増加すると思いますが、電話での株取引も続くと思いますよ。株取引なんて年寄りが大好きな遊びであり、真剣な勝負の場と思いますので、いつまででも電話取引はなくならないと思いますよ。」
「君若いのによく勉強しているね。口座作ったらどうするの?」
意見をしていたら俺に興味を持ってくれたらしくて話しかけてきた。
「お年玉を持ってきたのですぐに入金してすぐにでも運用したいと思います。頑張って儲ければと思います。」
「気が早いな。明日からできるように急いで口座作るよ。儲かったらおじさんにもおごってね。」
笑いながら気さくに冗談を言えるような営業さんだった。
そんな雑談をしながら口座に必要な記載をする事ができた。書類を渡し梶谷さんに口座開設を頼んだ。
「記載事項も問題ないね。これで口座開設はできるよ。後はおじさんがチョチョイと開設しておくね。」
笑いながら書類を持って席を立った。
父さんは、支店から退店しながら、疲れた表情で話しかけてきた。
「さて口座も作ったし、ちょっと早いけど昼飯でも食べて帰るか。」
「ちょっと待ってよ。せっかくだからパソコンも買いたいよ。パソコン屋行こうよ。」
「パソコンか。父さんの部屋にパソコンあるだろう。それでいいだろう。」
「自分専用のパソコンがほしいんだよ。」
「自分専用のパソコンか。まぁいいか。ついでだから一緒に行くか。お前パソコンを買うお金持っているのか。」
「もちろん準備済だよ。この後も乗せてね。」
父さんは、少しでも早く家に帰ってパチンコ行きたく帰る気満々だったが、俺がパソコン屋に行くことを頼んだせいか、パチンコ屋行くことを諦めてもらってパソコン専門店を目指すことにした。
(毎日ネット取引をするにあたって、自分のパソコンが必要だよ。父さんの部屋でやっていたら集中すらできないし、株取引をしている操作をあまり人に見られたくないよな。)
と思いながら、大須のパソコン屋に向かった。
このころの電器屋さんにパソコンは置いてなく、パソコンだけを販売しているパソコン専門店が販売の主だった。パソコン専門店では、デスクトップのデカい箱のパソコンが並んでいた。青いはっぴを着て鉢巻まいたお兄さんが呼び込みをしていた。
このころのパソコンは、機能の優れているのは、まだ本体の箱が異様に大きかった時代だ。そして冷却用のファンもうるさかったと思いだした。すぐに本体が熱くなってなぜかシャットダウンさせて冷やしていたのを思い出した。本体に扇風機を向けたり、冷凍枕にタオルを巻いて突然固まらないようにしてゲームをやっていた記憶がある。
パソコン本体を見てWindows 98か。98なんて懐かしいなと感慨深げに見ていた。
日立製、東芝製、NEC製 NECといえば、PC-9800シリーズ 日本のパソコン市場を席巻したパソコンであり、父さんのPCもNEC製だったなと感慨ふけりながら値段を見た。
(パソコン高!高いというより、機能が低すぎ。まじか・・・)
前世の世界でパソコンは身近にあった為、機能や値段にはびっくりした。現在と比較してしまい、上り調子になっていたテンションを落としながら、エクセルとワードが入っているパソコンを選んだ。横合いから鉢巻付けたお兄さんが「一太郎」のほうが使い勝手いいよ。「マイ〇ロソフト」なんて海外の物は、壊れた時の対応があまり良くないよ。と「一太郎」が入ったパソコンを進めてきた。
日本のソフト「一太郎」は、応援したいが今後シェアが落ち込むのを知っているので、申し訳ないが俺は買わないよ。店員さんに勧められたパソコンを断りつつ時代を席巻するマイク〇ソフトのエクセル・ワードが入ったパソコンを購入した。
そして少し遅めの昼飯を食べようと父さんがどの店に行くか聞いてきた。いきなり振られても昔の喫茶店の名前なんて知らんがなと思い、とりあえず切磋に思い浮かんだ名前を出してみた。
「えっと、コンパ〇名古屋に行きたい。」
おれは前世でも長く続いていた喫茶店の名前をなんとか思いだすことができた。
前世では、名前は知っていたが行くことがなかった「コンパ〇名古屋」。
なんといっても名古屋の名物 エビフライを使ったエビフライサンドでしょう。せっかくなので有名なエビフライサンドを頼んで食べる事にした。
(えびふりゃだぁ。やはり名物はうまい。)
食べた記憶がないので懐かしくはないが、これが何十年も親しまれる味なんだなと思いながら食べた。
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