第1章―会社設立編 第7話 初めての株取引          【1999年2月】 


 家について自分の部屋に戻り、早速パソコンを箱から取り出して、起動させた。隣の部屋に、父さんのパソコンがあるからすぐにネット回線が使えるのは助かる。この時代、ネット回線を契約して家に引っ張るだけで一カ月以上はかかるだろう。

もちろん父さんは、この時間からでもさっさとパチンコに行ってしまった。


パチンコ屋に行く父さんには、「チョコレートをいっぱいもらってきてね。」と頼んで出発した。

毎回、パチンコ屋行くと子供と遊ばない後ろめたさからか、申し訳なさそうにチョコレートをくれた。むしろチョコレートが好きだからパチンコ屋に行く父さんの帰りを俺は楽しみに待っていたかもしれない。



当時のパソコンは起動させてから、インターネットに繋がるのに時間がかかった。パソコンを起動させるのに数分、インターネットにつながるのに数分とか、この当時のパソコンには、とにかく時間がかかった。


「パソコンが立ち上がるのがおせぇ。まぃいいか、さてネットさえ繋がれば、ネット取引の準備ができるな。」

しかし、ネット口座を開くことができなかった。午前中に証券会社に行ったばかりであった。

(まだ当日開設ですぐにネット口座へのログインは無理か。気持ちが焦り過ぎているな。とりあえず落ち着くか。)

手元に持ってきたアイパッドの”未来ネット”を見ながら、明日買って明後日ストップ高になる銘柄を探してみた。

前世で株取引していることから使っていたサイトを見る事ができた。日付けを入れると指定した日のストップ高やストップ安の銘柄一覧を見る事ができた。ストップ高の銘柄一覧から、明日買う銘柄を決めて、今日はパソコンをシャットダウンする事にした。



翌日、いつもよりさらに早く起きてしまった。キッチンにあった菓子パンをかぶりつきながら、パソコンを起動させた。はやる気持ちを落ち着かせながら今日はネット口座をログインする事ができた。

さっそく午前9時の株式市場がスタートした。

昨日考えていたが、明日ストップ高を示している銘柄が、現状180円近辺で取引されており、数円の変動しかなく、チャートとしてはほぼ同じ値段で変化の少ない銘柄であった。1時間後の午前10時に一括で1,000株を購入してみた。俺がこの間振り込んだ財産の20万をすべて使い買った。前世ではよく株を購入していたが、今の人生ではもちろん始めてだ。ドキドキしていたがあっさりと1,000株購入することできた。


「この銘柄に俺の今後の人生がかかっている。当たってくれよ!」

天にもすがる気持ちで俺は祈ってみた。

この出来事により、俺の人生は大きく変わる事になることをこの時の俺は知るよしもなかった。



 翌日の早朝から眼がさえ、布団から起き上がった。ドキドキして前日はあまり眠れなかったからである。早朝からコンビニエンスストアに行き、経済新聞を購入して家に帰った。

家に戻り買ったばかりの経済新聞を読み始めた。購入銘柄の会社の記事を見つけた。経済欄にその会社の話題が小さく記事に載っていた。要約するとその会社が違う業界の会社と提携した話が載っていた。やはりアイパッドの”未来ネット”は正しい未来を掲載しているんだと確信し、経済新聞の提携話が、予定通り株価に反映しストップ高になる事を信じて待つことにした。


朝食を素早く食べ終え、自分の部屋の席に戻りインターネットでいろんなサイトを見ている間に午前8時になり株式市場が開く前の銘柄の板気配を見た。


株式市場が開く前、午前8時から昨日買った銘柄の板気配見ていた。成行買いが多く買いがかなり優勢だったのがわかる。午前9時に市場が始まるが、始まる前の午前8時から午前9時の間の1時間は、売買できないが買い注文と売り注文が交錯している状況がわかるようになっている。売買は成立しない為に株価はまだ動かないが、その日の午前中の動きがある程度わかるようになっている。成行買いが多く株式市場が開始後、株価が上がる事が予想できる。


市場での成行買いや成行売りというのは、売買を行うときに値段を指定せずに注文する事である。株価の値段は、売買して初めて値段が成立する。今回、該当銘柄は値段を決めずに買いたいという人が圧倒的に多い状況となっているのがわかる。株価指定売買は、株価を決めて売買をしようとするため、取引が成立しない事があるが、成行売買は、株価は決まってない為成立しやすい違いがある。



午前9時を過ぎて市場が開いて売買が成立する時間になっても、購入していた銘柄の板気配は成行買いが圧倒的に多い状況でそれを見た投資家がさらに購入したく列をなして、成行買いの購入枚数が増加する一方となり、30分経っても売買契約が成立せずにどんどんと株価が吊り上がっていった。昨日の株価180円は開始直後に超え、壁と思われた200円もあっさりと突破し、1時間も過ぎた頃には売買が一回も成立せずに株価230円のストップ高を示した。230円のストップ高の状況でも圧倒的に成行買いが多く取引が成立しない状態となった。このまま市場は午後3時を迎えて、取引が終了となる時間となった。



「まじか。予想通りのストップ高かよ。これすげぇよ。夢が広がるよ。」

株の取引市場を見ながら俺は、ついつい大きな声を出してしまった。


「あんた、うるさいよ。もう少し静かにしなさい。」

下から母さんの声が聞こえた。


「はい。ごめんごめん。」

おれは一旦冷静になった。次の展開をアイパッドの”未来ネット”を確認した。

昨日1株180円で購入した株が、本日ストップ高となり、1株230円となった。“未来ネット”では、明日もストップ高で80円上げの310円になると記載されている。

明日状況を見て売却して次の銘柄を探すか。引き続き売却せずにこの株を持ち続ける事のどっちが得かを考える事にした。

(ストップ高が続くまで持っていて、どっかのタイミングで一回売却して次の銘柄に切り替えるかな。)


株式市場も閉じたため、喉がカラカラになったことに今更ながら気づき、一息つくために近所のKストアにコーラを買いに行った。

(Kストアって懐かしいな。どこに吸収されたんだっけ。そうだ株で儲けて会社起こして、前の人生では味わえなかった社長、そして若手起業家になってみるか。)

俺は、新たな決意をしながらコーラを飲みほした。


「ゲホゲホッ」


炭酸と名のつくのを久しぶりに飲んだ。前世の学生時代以来だよ。こんなアワ強かったっけ。俺ってやっぱり主人公になれるようなキャラじゃないな。と苦笑しながらこの幸せを噛みしめていた。



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