プロローグ② 第2話 新たな世界への旅立ち
築50年も経った古びたアパートの一室で少し薄汚れた布団から起き上がり、夢から覚めた。
「なんか変な夢を見たぞ。ユニコーンってやっぱり鹿に角だったのか。」
俺はどうでもいいことを思った。
悲しいのか嬉しいのか、内容はしっかりと覚えていた。俺は近いうちに死ぬのだろうか。いや、死にたくない。ただ死ぬ前にやってみたいことがすぐに思い浮かばない。でも仕事にはいきたくない事だけは確かだ。
最後に言っていた記憶を持って違う世界に行ってみたいと漠然と思った。もうこの世界を終わらせたいが、死にたくはない。よし決まりだ。
さっさと朝食を済ませ、次の行動に移した。久しぶりに快適に目覚めたきがした。
“きさらぎ駅”とは、過去聞いたことがある駅だった。少し前にインターネット上で騒がれていた幻の駅として有名な都市伝説である。俺も調べてみたが現実に存在しない駅だ。
たしか静岡駅から乗ったら稀に“きさらぎ駅”につくとか、日本各地で見た事があると目撃情報が多数流れていた幻の駅だ。こんなところでこの駅の名前を聞くとは思わなかった。俺は都市伝説に興味があったので、昔からその名前を知っていた。そして行ってみたいと“きさらぎ駅”を知った当時は思っていた。
“きさらぎ駅”の名前を不思議な空間で聞いた時、昔興味を持って調べていた私はテンションが上がった。しかしネットで“きさらぎ駅”を知らない普通に人たちは、意味不明な会話で終わりそうだ。
もしかしたら“きさらぎ駅”という都市伝説を私が知っていたためにあそこまで鮮明に夢を覚えていたかもしれない。朝から妄想が広がってしまう。
せっかくなので興味がそそられる“きさらぎ駅”を見たい。新しい世界に行ってみたい。と答えにたどり着いた俺は、この世に未練もないので仕事を放棄して、いつも寝るときに見ていたアイパッドを手に新宿駅に向かう決意をした。もちろん携帯電話などの通信手段は家に置いておこう。これは新しい世界に必要ないし、電話がかかってきたら、電話に出てしまう反射神経は、ブラック企業に染まった俺のいらない特技だ。
早速、新宿に向かうことにした。仕事の事を考えなくていいって、ここまで晴れやかだったんだと気分も高揚し、昨日までの下向いて歩いているのと異なり、違った世界が見えるまでに気持ちが変わっているのがわかった。
家を出るまでは小雨が降っていたのだが、家を出ると同時に止んだ事も気持ちに影響したかもしれない。
いろいろと考えながら歩いていると、すぐに新宿駅にたどり着いた。ここで歩き回り夜中まで待つことにした。会社の近くに住みたいと思っていたので、新宿駅まではすぐの場所に住んでいた。人ごみの多い新宿駅は、普段行くことを遠慮していたため、家から近いとはいえ、新宿駅に来ることは数年ぶりだった。想像通り人ごみの多さと道を狭くする工事中の場所。数か月行かなければ、工事する場所が変わってしまい道に迷いそうになる迷惑な駅でもある。
駅前の喫茶店に入り夜まで時間をつぶすことにした。ふと眼を他にやると疲れ切ったサラリーマンが下を向いて携帯を覗き込みながらコーヒーを飲み干していた。昨日までの俺を見てるようでこんなに疲れ切って生活をしていたのかと衝撃を受けた。何年もこんな状態だったんだなと、そしてそんな生活とおさらばできると思えば、気持ちも明るくなるもんだ。何時間もこの喫茶店に居座っても店員の眼が気にならないぐらい軽い気持ちになった。
外は、暗くなるにつれて街灯がつき始めた。外を歩く人たちの雰囲気が変わってきた。疲れかけたサラリーマンから、広場や通りで若い人たちが大きな声で集まっているなか、酔っぱらったサラリーマンがふらふらと邪魔にならないように歩いている。
もう少し時間が過ぎると、若い人たちもどこか街中に消えていった。ネオン街にある新宿駅は夜中とはいえ、酔っ払いのおじさん達が地べたに寝転がっている人がぽつぽつといる状態だった。
そんな景色を見ている中、お会計をし終えて喫茶店を出た。逸る気持ちが歩幅を早める事となり、足早に歩く中、改札口を降りる際に駅員さんとすれ違った。もう夜中なので気づいて引き留めるかと思ったが、夜中にホームに向かって歩く私の存在があり得ないと思われたのか気づかれずに通り過ぎて行った。
まだ午前2時まで時間がある中で、ホームにたどり着いた。時計を見て時間を確認し、午前2時まで座って待つことにした。眠たい眼をこすりながら、椅子に座った。
誰もいないホームは、新宿とは思えないほど静かな空間だった。
(あれ、いつの間にか寝てたのかな。)
ふと気づくと、本当に電車の走っている音が遠い暗い闇の中から聞こえてきた。俺はいつの間にか眼をつぶってウトウトしていたようだ。
ゴーッゴトンゴトン ゴーッゴトンゴトン
小さな音が暗い闇から徐々にこちらに向かってくるように音が大きくなってきた。
本当に新宿駅のホームに電車が来た。信じられない気持ちで電車を眺めていた。この電車には、運転手も含めて誰も乗ってないのに気付いた。
プシューッ シャー
運転手がいないのに私の前で停車し、開かないはずのドアが開いた。
おれはホームの壁際の椅子に座っていたが、興味本位にドアの中を覗いてみたく前の方に歩みを進めた。
(まじか。真夜中の恐怖体験だわ。これは。なんで誰も乗ってないんだよ。どんな原理で動くんだよ。本当に幽霊列車や。これに俺は乗りこむ勇気があるのか。とりあえず中を見るだけだぞ。)
決心がつかない中、興味だけがおれを前のめりな格好をさせ、電車を覗き込んでいた。
乗り込むのかどうしようか決心がつかない中、
プップー
鼓笛みたいな音が鳴った。
無意識的に足が動いてしまった。閉まるドアの向こう側である電車の中に体が動いてしまった。
プシューッ
当然のようにドアが閉まった。
(しまった。おれってあほだろ。乗ってしまった。これからどうなる。ファンタジーな世界で俺は生きていけるのか。おれは戦えるような知識も度胸もないぞ。)
電車が動き出す中、これは長い夢だと思い込んで諦めて椅子に座ることにした。周りを見てももちろん誰もいない。俺が一人乗ってなぜか動いている電車であった。恐怖で叫びたくなるこの状況を夢と思い込んで落ち着かせた。
いつもなら5分もすると恵比寿駅に着くと思ったが、途中で線路が切り替わり違う方向へと電車が進んでいるのに気付いた。そしてなぜか地上へと出た後も走り続けている。しかし外の景色は明るい街ではなく明かりもない東京とは思えない暗闇を突き進んだ。
暗闇を感覚的に20分ぐらい進んだ先に少しだけ薄暗く明かりが漏れている駅があった。近づくにつれて電車の速度も遅くなりつつあり、薄汚れているホームの看板に駅名を見る事ができた。看板には“きさらぎ駅”と書いてあった。
(まじか。夢で言っていたことは本当だったんだ。幻の“きさらぎ駅”は本当に存在した。)
逸る気持ちを抑えながら、電車の椅子から立ち上がった。
(降りたら、本当に違う世界に行けるのか。ってかこのホームに降りるしかないよね。)
誰かに話しかけるような感じで、悩みながらドアが開いた瞬間に思い切って駅に飛び降りた。
飛び降りた瞬間に、世界が急に明るくなり慌てて眼を閉じてしまった。
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