第2話 悪女スカーレットの始まり②
そもそもの始まりは、スカーレットが叔父夫婦に預けられた四歳の頃。実の両親のもとに待望の男児が生まれたことで、スカーレットは露骨に遠ざけられてしまった。
年端もいかぬスカーレットが両親から疎まれた理由の一つに、スカーレットが様々な素材をどこからか貰ってきて、勝手に「おもちゃ」を創作することが含まれていた。どれもこれも、たいした物ではなかったはずだが、両親はいつかスカーレットが危ないモノを作り出して、生まれたての弟に危害を加えると恐れ、叔父夫婦のもとに娘を押し付けたのだった。
「ようこそ、スカーレット。ここを自分の家だと思って、のびのび過ごしなさい」
叔父夫婦は、スカーレットの趣味や特技を理解してくれた。ちゃんとお勉強もすることを条件に、寛容な心で受け入れてくれた。
「ありがとう! 叔父様、叔母様! わたくし、いろんな物たーっくさん作りますわ! そうだ、お二人のお好きなモノは何? わたくし、作って差し上げますわ!」
スカーレットは叔父夫婦に恩返しがしたくて、そして実の両親にも認められたくて、何でも人一倍頑張った。
叔父夫妻は若かりし頃、伯爵の地位を国王陛下から賜って以来、この広大で何も無い、本当に何もないと言っても過言ではないほど真っ平らな荒地を、地道に開発していった。土の質が大変悪くて、どこを掘っても砂利ばかり。資源になりそうな森の奥は、頭の固い先住民が占拠していて、どう見ても大ハズレの土地だったはずなのだが……叔父夫妻は三十年以上かけて、領民の暮らしやすいように領土の土木を整えていき、亀の歩みと揶揄されようとも、隣領土と助け合いながら、やがて森林の先住民たちとも和解し、今では広大な土地が大変美しく整えられて、ちょっとした都心のようになっているのだから、まさしく『努力の人』、スカーレットは叔父夫妻をそのように評価していた。
手紙の一つも返してくれない実の両親よりも、スカーレットの人生に大きな影響を与えてくれた。
そしてスカーレットに、努力していれば何でも叶うと勘違いさせた、最大の原因にもなったのだった……。
年頃になったスカーレットは、どこの社交界に出しても数多の視線を釘付けにする、秀麗な淑女に成長した。艶やかで麗しい金色の髪と、みずみずしい肌、空色の大きく澄んだ瞳は宝石のようだと褒め讃えられ、彼女の美しさを詩にして酒場で演奏されるほど。彼女が笑顔でその唇を花開けば、皆が聞き入り、彼女が椅子に腰掛ければ、ぜひお近づきにならんとする老若男女で前も見えぬほどになった。
その際、スカーレットの風変りな趣味趣向は、皆の心からは「無いモノ扱い」されていた。いつかスカーレット嬢もどこぞへ輿入れする日が訪れたら、奇妙な真似も辞めるだろうとの考えからくる扱いだった。
叔父夫妻に子供はいなかったけれど、伯爵家の跡継ぎは、この美しく聡明で、人当たりも良いスカーレット嬢で間違いないと、誰しもが思っていた。
スカーレットも、けっきょく一度も手紙をくれなかった両親からの愛を諦めており、叔父夫婦の跡目を継ぐつもりでいた……あの手紙が届くまでは。
『私たちの可愛いスカーレットへ
未来の旦那様となる男性が お待ちになっています
大至急 帰還しなさい』
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