第29話 “魔“ vs ”魔”

《デンマークとドイツとの国境付近の街》

 ヒグマの超生類ちょうせいるいを中心とした群れを引き連れ、森の王こと、ヘラジカの超生類ちょうせいるいは、侵攻を続けていた

『ドオンッ!

 ドオンッ!』

 砲撃するレオパルト2の戦車部隊

 更に、

『ダダダダ!

 ダダダダ!!』

 プーマ装甲歩兵戦闘車の部隊も超生類ちょうせいるいの群れに対して、機関砲を連射する

 しかし、

『ガサガサ…!!』

 草木の葉っぱ等が、ヘラジカの超生類ちょうせいるい達の目の前を覆い、砲撃や銃撃から守るのだった

 そして、次の瞬間、

「…!」

 ヘラジカの超生類ちょうせいるいは、草木の隙間から戦車や戦闘車の敵部隊を睨むと、

『ガシンッ!!』

 大樹が一斉に、車両の底部から貫く

『…ボオンッ!』

 爆発に包まれる車両達

「強いと聞く軍隊でも、この程度か…

 つくづく平和ボケした奴等だ…」

 ヘラジカの超生類ちょうせいるいは、そう呟く

『ガサッ…』

 すると、目の前を覆っていた草木の葉っぱが開き、再び侵攻を続けようとした、その時であった


『…ブオンッ!!』

 何処からか火球が飛んできて、ヘラジカの超生類ちょうせいるいの所が爆炎に包まれる

「…王!?」

 従っていたヒグマの超生類ちょうせいるいの一頭が、叫ぶ

 だが、次の瞬間、

『…バサッ!!』

 風圧で爆炎が吹き飛び、中から、無傷のヘラジカの超生類ちょうせいるいが姿を現す

「ご無事でしたか…!」

 安堵するヒグマの超生類ちょうせいるい

「一体何者だ…!

 姿を現せ…!」

 ヘラジカの超生類ちょうせいるいは、そう言いながら、火球が飛んできた方を見た


「この程度の魔法で倒せるとは思っていないけど…

 無傷とはね…」

 そこに姿を現したのは、布で目隠しをされたまま、長い杖を携え、空中を浮遊するローズ・ヴァレンタインであった

「汝、何者だ…?」

 ヘラジカの超生類ちょうせいるいは、聞く

「ただの通りすがりの魔女よ…」

 ヴァレンタインは、そう答えた

「魔女…?

 この現代に…?

 笑わせるなよ、人間…!」

 そして、ヘラジカの超生類ちょうせいるいが、そう言った次の瞬間、

『バキバキ…

 ドゥンッ!!』

 木の枝が地面から生え、一斉に襲い掛かる

 ヴァレンタインの目の前にまで迫る木々の枝

 しかし、次の瞬間だった

「“……”」

 ヴァレンタインは、聞き慣れない言葉を唱える

 すると、次の瞬間、

『…パシンッ!!』

 薔薇の棘らしき物が、地面から勢いよく生え、ヴァレンタインに迫っていた木々の枝に絡み付き、その木々の動きを止めるのだった


「…!

 それならば、これならどうだ…!」

 ヘラジカの超生類ちょうせいるいが、そう言うと、動きを止められた木々とは別に、新たな木々が地面から生え、あらゆる方向から、空中に浮遊するヴァレンタイン一点に向かって襲い掛かる

『グシンッ!!』

 勢いよくぶつかり合う木々達

 だが、次の瞬間、

『バアッ…!』

 襲い掛かった木々達が炎に包まれる

 燃え尽き、崩れ落ちる木々

 その中から姿を現したヴァレンタインは、傷一つ付いていなかった


 すると、ヴァレンタインは杖を前に構え、サッカーボール程の火球を無数に出現させる

 そして、ヘラジカの超生類ちょうせいるいに向かって、まず一発、放つのだった

『…ボオンッ!』

 爆発に包まれるヘラジカの超生類ちょうせいるい

 しかし、

『ボンッ!』

 ヘラジカの超生類ちょうせいるいは、爆発から抜け出し、ヴァレンタインと一定の距離を保ったまま、横目に彼女を見ながら、ヘラジカの超生類ちょうせいるいは走り出す

 ヴァレンタインは、そんなヘラジカの超生類ちょうせいるいに対して、立て続けに火球を放っていく

『ボオンッ!

 ボオンッ!

 ボオンッ!』

 だが、火球は、そのヘラジカの超生類ちょうせいるいのスピードに追い付かず、地面に着弾する

 それでも、更に火球を放ち続けるヴァレンタイン

『ボオンッ!

 ボオンッ!

 ボオンッ!』

 しかし、火球は変わらず、地面を叩く

 すると、次の瞬間だった

『タッ…!』

 ヘラジカの超生類ちょうせいるいが、動きの方向を変え、ヴァレンタインの方向へと飛び掛かってくる

 そして、そのまま、ヘラジカの超生類ちょうせいるいは、右腕で殴り掛かろうとするのだった

 だが、その時、

『パシッ!』

「…!?」

 ヘラジカの超生類ちょうせいるいは、驚く

 一本の棘らしき蔓が、ヘラジカの超生類ちょうせいるいの右足首に絡み付き、掴んでいた

 そして、その蔓は、ヘラジカの超生類ちょうせいるいを、ヴァレンタインから距離を引き離すように、後方へと放り投げる

『ドンッ!!』

 地面に放り投げられ、砂煙に包まれるヘラジカの超生類ちょうせいるい


 しかし、ヘラジカの超生類ちょうせいるいは、首を振って、砂煙を払いながら、砂煙の中から姿を現す

「汝…

 本当に魔女なんだな…!」

 ヘラジカの超生類ちょうせいるいは、ヴァレンタインを見詰めて、言う

「そっちも、本当に丈夫な身体ね…

 本当に貴方達は、何者…?」

 ヴァレンタインは、聞くのだった

「汝の言葉を使うならば…

 我々は、ただの動物が進化したものに過ぎないさ…!」

 ヘラジカの超生類ちょうせいるいは、そう答える

「それは本当かしら…?」

 ヴァレンタインは、疑う

「疑うならば…

 私を殺して、私の身体を好きなだけ解体すれば良い…!」

 ヘラジカの超生類ちょうせいるいは、そう言うのだった

「なら、そうさせて貰うわ…!」

「…?」

 すると、地面も何も無い空中で、杖の持ち手の端を、下方向へと一回小突くヴァレンタイン

『コンッ…!』

 次の瞬間、そこに地面があるかのように、何かに当たり、音が鳴った

『パリン…

 パリン…!』

「…!?」

 その瞬間、ヘラジカの超生類ちょうせいるいは、まるで硝子が割れるかのような、空間が割れる感覚に陥る

 そして、次の瞬間、

『…キシッ!』

「…!」

 ヘラジカの超生類ちょうせいるいは、ヴァレンタインに一瞬で背後を取られ、更に、ヘラジカの超生類ちょうせいるいの首元に、杖から大鎌へと、姿を変えている途中の物が突き付けられていた


「何が起こった…!?

 何をした、魔女…!」

 ヘラジカの超生類ちょうせいるいは、叫ぶ

「何もしていないわ…

 だって貴方は、最初から幻覚を見ていたのだから…!」

 ヴァレンタインは、そう言う

「…!」

「不思議に思わなかった…?

 貴方に対するアクションの殆どが、後手で進んでいた事に…」

 ヴァレンタインは、続けてそう言うのだった

「それじゃあ、さようなら、森の王さん…!」

『シュッ…!!』

 ヴァレンタインがそう言った後、斬り裂く音だけが響く


 炎に包まれる街並み

 無数に転がる超生類ちょうせいるいの死体

 そんな街並みの中心で、座り込んでいたヴァレンタイン

 ヴァレンタインの膝の上には、ヘラジカの超生類ちょうせいるいの頭部が抱えられていた

 すると、ヴァレンタインは、目隠しされていた布を解く

 布の下から姿を現したヴァレンタインの瞳は、綺麗で透き通った赤色と青色のオッドアイであった

 ヴァレンタインはそんな瞳で、ヘラジカの超生類ちょうせいるいの頭部を、愛でるように眺める

「死して尚、美しい…

 本当に貴方達は、何者なのかしら…?」

 ヴァレンタインは、ヘラジカの超生類ちょうせいるいの頭部を眺めながら、そう呟く


 しかし、次の瞬間だった

『…スッ』

「そこまでだ、ローズ・ヴァレンタイン…

 その頭部を置け…!

 これ以上の事は、許可されていない…」

 小さな杖を携えた、フード付きのローブ姿の人物達が、杖の先端をヴァレンタインに向け、ヴァレンタインを取り囲む

「残念だけど、分かっているわ…

 もっと色々と、調べられると思ったのだけど…」

 ヴァレンタインは、そう言い、

「また、どこかで会いましょう…」

 と続けて言い、

『…ッ』

 ヘラジカの超生類ちょうせいるいの額部分に、口づけを交わすのだった

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