第28話 深層

《ヨーロッパ、とある街》

『バサバサ!!』

 石造りの建物や路地を呑み込みながら、物凄い勢いで、這って迫り来る木々や植物達

 そして、次の瞬間、

『ガンッ!

 グシッ!!』

 路地に控えていた戦車のレオパルトの底部から、砲身や展望塔を木々が貫く

『ボンッ…!!』

 レオパルトは爆発に包まれる

 それでも尚、木々や植物達の侵食は止まらないのだった

『バサバサ!!』


『バサ…、バサ…、バサ…』

 緑に包まれた道を踏みながら、ゆっくりと歩んでくる足元

「この国の軍は、弱いな…」

 歩みを進めてきたその者は、ヘラジカの超生類ちょうせいるいであった

《異名:森の王》

「この国の軍は、自国より他国での活動に重きを置いていますから…

 所詮、平和ボケした奴等という事です…」

 一緒に側を歩くヒグマの超生類ちょうせいるいは、言う


『ドオンッ!

 ドオンッ!

 ドオンッ!!』

 ヘラジカの超生類ちょうせいるいに向かって、一斉に砲撃する複数のレオパルト

 迫り来る砲弾

『ボンッ!!』

 辺りが黒煙に包まれた

 しかし、木々や植物が、ヘラジカの超生類ちょうせいるいの目の前に立ち塞がり、砲撃を防ぐ

『バサバサ…』

 攻撃を防ぎ、引いて下がる木々達

「本当に汝等は弱過ぎて…

 哀しくなる…!」

 ヘラジカの超生類ちょうせいるいはそう呟くと、次の瞬間、

『…パンッ!』

 勢いよく、合掌する

『…バサンッ!!!』

 その瞬間、砲撃してきた全てのレオパルトの展望塔から、巨大な大木が生えるのだった

『大地へお返り…』

 ヘラジカの超生類ちょうせいるいは、そう呟く


《とある地下施設》

『カツン、カツン、カツン…』

 中央に巨大な空洞が空いた、コンクリート造りのらせん階段を下りていくスーツ姿の一人の男性

 すると、下まで下りきると、コンクリート造りの広い空間に出るのだった

 そして、その男性は、その空間の奥へと歩みを進める

 奥に突き進むと、そこに姿を現したのは、布で目隠しをされ、口元には猿ぐつわ、更に両手首は頭上で拘束され、壁際に吊された銀髪の女性が、スポットライトで照らされていた

 更に、その銀髪の女性の足元では、修道服に身を包んだ数人の女性が、床に座り込み、両手を合わせ、その銀髪女性を祈るようにしている

「…!

 これは、スターク様…!」

 そんな光景を、傍で見守るように居たローブ姿の男性が、スーツ姿の男性に気付く

「…枢機卿

 彼女と話せるか…?」

 スーツ姿の男性は、そう問うのだった


「向こうからの直接の会話は、出来かねます…

 ただ、でも良ければという話なら…」

 ローブ姿の男性は、そう答える

「それで頼む…」

 スーツ姿は、そう言う

 すると、次の瞬間、ローブ姿の男性は、

『…コンッ!』

 手に持っていた長い杖を、地面に一回、勢いよく突いて、音を鳴らした

 そして、次の瞬間、祈りを捧げていた修道服の女性達が座ったまま、左右に分かれ、道を開ける

「では、スターク様…

 どうぞ…」

 ローブ姿の男性が、言うのだった


 銀髪の女性の足元へと近付く、スーツ姿の男性

「聞こえるか…?

 人類、最初にして最後の…

 そして、最強の…!

 ローズ・ヴァレンタイン…!」

 スーツ姿の男性は言う

「珍しいわね…

 ここに、外から人が来るなんて…

 しかも、それが、EUのトップだなんて…」

 銀髪の女性の声が、直接脳内へと伝わる

「そんな貴方が、私に何用かしら…?」

 ヴァレンタインは聞くのだった

「今、ヨーロッパ…

 いや、人類は危機に瀕している…!

 魔女である貴方にも視えていた筈だ…

 デンマークが落ち、ドイツにまで侵攻が進んでいる…

 このままでは、EUが落ちるのも時間の問題だ…

 そこで我々は、魔女である貴方に協力を求める事を決定した…!

 我々にちからを貸してくれないか…?

 ローズ・ヴァレンタイン…!」

 スーツ姿の男性は、力強くそう言う

《名前:ルイス・スターク

 肩書き:EU首相》


「あれだけ私達のちからを畏れていたというのに…

 いざ、危機に瀕した時には頼る…

 本当に都合が良いものだな、人間というのは…!」

 ヴァレンタインは、そう言うのだった

「…」

 図星を突かれ、何も言い返せないスターク

「私も別に、この世界が嫌いな訳では無い…

 良いだろう、ちからを貸してやろう…!」

 ヴァレンタインは言う

「…!

 それは本当か…!?

 では、兵士達に魔法の伝授をお願いする…!」

 スタークは聞き返し、そう言うのだった

 しかし、

「だが、条件がある…!

 約束通り、魔法は教えてやろう…

 しかし、私も戦場に出る…!

 それが条件だ

 私も興味がある、超生類ちょうせいるいというものに…!

 彼等は何者なのか…?

 ただのキメラと過ぎないのか…?」

 ヴァレンタインは、そう言う

「…!

 それは…!」

 スタークは、ヴァレンタインのその言葉に驚き、言葉を詰まらせるのだった

 その瞬間、目隠しに、猿ぐつわをされたヴァレンタインであったが、不敵な笑みを浮かべているように見えた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る