第25話 渦の中へ

《時は遡り、奈良県内》

 木の枝を刀のように構える鹿の超生類ちょうせいるいと、サバイバルナイフを構える自衛隊員の佐藤一輝が向かい合って、立っていた

 すると、次の瞬間

『タッ!』

 二人は一気に間合いを詰める

『シュッ…!』

 木の枝を振り下ろす鹿の超生類ちょうせいるい

『ザンッ!』

 それを逆手で持ったサバイバルナイフで受け止める佐藤

『ギシギシ…』

「!」

「…クッ!」

 次の瞬間、佐藤は押し返して、一旦距離を取る

 そして、佐藤はサバイバルナイフを順手に持ち直すと、再び間合いを詰め、フェンシングのサーベルを振るように細かい振りで、サバイバルナイフを右に左に振り翳す

『シュッ、シュッ、シュッ…!』

 しかし、鹿の超生類ちょうせいるいは、それらを躱したり、木の枝でいなしたりして、全て避けるのだった


『カンッ!!』

 すると、次の瞬間、鹿の超生類ちょうせいるいは、木の枝を下から振り切り、佐藤のサバイバルナイフを弾き飛ばす

「…!」

 丸腰になる佐藤

 そして

『ドンッ!!』

 そんな丸腰になった佐藤を、鹿の超生類ちょうせいるいは足の裏で、佐藤の胸部を勢いよく蹴り、吹き飛ばすのだった

 勢いよく後方に飛ばされ、砂煙に包まれる佐藤


 だが、その時

『…カラ』

「…?」

 何かが転がる音がして、鹿の超生類ちょうせいるいは、地面を見る

 そこに転がっていたのは、栓の抜かれた手榴弾であった

『ボオンッ!!』

 辺りが爆発に包まれる


「…ハアハア

 遣ったか…?」

 砂煙の中から姿を現した佐藤は、呟く

 しかし

「言った筈だが…?

 これでも神の使いだと…

 それでも、本気で遣りにきている所は褒めてやろう…!」

 煙の中から、ほぼ無傷に近い鹿の超生類ちょうせいるいが、姿を見せる

「…!

 本当に化け物だな…」

 佐藤は、そう言うのだった


『タッ…!』

 再び、一気に間合いを詰めてくる鹿の超生類ちょうせいるい

 そして、近付くと同時に、木の枝を横一閃、振り抜く

「!」

 佐藤は、鹿の超生類ちょうせいるいの身体の左側へと、ローリングして躱す

 その後、佐藤は透かさず、拳銃をホルダーから取り出し

『パン、パン、パン!』

 数発、発砲する

 しかし、鹿の超生類ちょうせいるい

『キンッ!』

 1発目の銃弾は、角で弾く

 だが、

『ピシッ、ピシッ…!』

 2発目、3発目の銃弾は、身体に食らうのだった


「クソが…!」

 鹿の超生類ちょうせいるいは慌てて、身体を反転させて、その勢いのまま、佐藤の頭部の左側へと、右足のハイキックを食らわす

『ドオンッ!!』

『ミシミシ…』

 鹿の超生類ちょうせいるいのハイキックが、佐藤の頭部を確実に深く捉えるのだった


 動かない佐藤

 頭部からは血液が垂れる

 しかし、次の瞬間

『パシッ…!』

 佐藤の左腕が動き、鹿の超生類ちょうせいるいのキックした足の足首部分を、離れないように掴んだ

「捕まえた…

 それじゃあ、一緒に逝こうか…?」

 佐藤は、そう言う

『カラン、カラン…』

「…!」

 次の瞬間、複数個の手榴弾が、地面に転がるのだった

『ド、ド、ドオンッ!!』

 一斉に爆発し、辺りが煙と激しい爆炎に包まれる


 辺りが煙に包まれる中、その煙から少し離れた地面に、倒れていた佐藤

「ウッ…」

 頭部の左半分は血だらけ、更に全身も傷だらけの佐藤は、ゆっくりと身体を起こそうとしていた

 そして、爆発の煙が晴れてくる

 すると、そこには、地面に倒れた鹿の超生類ちょうせいるいが姿を現す

「どういうつもりだ…?

 何故、助けた…?」

 佐藤は、出せる精一杯の声で聞くのだった


 手榴弾が爆発するその瞬間、鹿の超生類ちょうせいるいは、持っていた木の枝を逆手に持ち

『グサッ!』

 自分の掴まれた右足に突き刺したのだ

 その後、貫通した木の枝の両端を、それぞれ両手で握り、船の舵を切るように捻り上げ

『ブチブチ…』

 そのまま、膝から下を引き千切る

 そして、次の瞬間、鹿の超生類ちょうせいるいは左手で、佐藤の胸ぐらを掴み、回転する遠心力で、佐藤を放り投げるのだった


「助けたつもりは無い…

 私をここまで追い込んでおきながら、勝ち逃げみたいな事をされるのが嫌だっただけだ…」

 鹿の超生類ちょうせいるいは、そう答える

「本当によく分からない存在だ、超生類ちょうせいるいという生き物は…」

 佐藤は言う

「そう容易く分かられてたまるか…

 簡単に分かり合えていたら…

 今、こんな事に…

 なっては…いない…」

 鹿の超生類ちょうせいるいは、そう言い残し、息絶えるのだった


《とある病院の個室》

「…ゥ」

 全身と顔の左半分を、しっかりと包帯を巻かれた佐藤

 その佐藤が、ベッドの上で目を覚ます

 なんてな…」

 と佐藤は、呟く


 すると、その時である

「そんな冗談を言えるのなら、元気だな…」

「…!」

 佐藤が声のした方に目線を向けると、そこには、スーツ姿の女性が立っていた

「どちら様ですか…?」

 佐藤が聞く

「防衛省に所属する、桐葉きりはかえでだ…

 単刀直入に言う…

 佐藤一輝1等陸士、貴方をこの度新設される、対超生類ちょうせいるいを専門とする部隊への転属を命ずる…!」

 スーツ姿の女性、桐葉はそう言うのだった

「…!?」

「貴方は超生類ちょうせいるいとの戦闘に、生きて帰還した…

 上層部は、それを高く評価して、貴方を陸曹長への昇級と、新部隊の隊長とする事を決めたわ…」

 桐葉は、続けてそう言う

「突然過ぎて、理解が追い付かない…

 陸曹長…?

 隊長…?

 新たな部隊…?」

 佐藤は、呟くしかなかった

「貴方に考えている時間は無いわ…

 これは決定事項で、この戦争を終わらす為に必要な決定よ…!」

 桐葉は、佐藤を真っ直ぐ見詰め、強く言う

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