第23話 切先が向く先

《時は少し遡り》

 東京、下町の一軒の古民家

 その古民家の和室の一室

 その和室で、向かい合って座る高齢の男性と、スーツ姿の女性

 女性は正座をして、礼儀正しく座っていた

「貴方の考えは知っています…

 ですが、貴方が打つ日本刀は性能が高い…

 どうか、我々にその性能の高い日本刀を打って頂けないでしょうか…?」

 土下座をして、スーツ姿の女性は言う

「…」

 高齢の男性は、無言のままであった

「もしも…

 貴方が打った日本刀で、超生類ちょうせいるい達を退け、この国に平和をもたらす事が出来れば…

 その時それは、平和の象徴として、神聖な物となり、国民に崇拝されるのではないでしょうか…?

 そうなれば、貴方の考えとも近くならないですか…?」

 高齢の男性を真っ直ぐ見詰め、スーツ姿の女性は問う

「では、逆に問う…

 何故なにゆえに、日本刀なんだ…?

 お前達、自衛隊なら、銃火器がある筈だ…」

 高齢の男性は、逆に聞き返す

 それ位の事をしなければ、彼等を殲滅出来ないと思っているからです…」

 スーツ姿の女性は真剣な表情で、強く言うのだった


「…」

 深く一回息をつき、腕を組む高齢の男性

藤原篤人ふじわら あつんど様…

 この国を守る為に、そのおちからを貸して頂けないでしょうか…!」

 おでこを畳に付ける程、もう一度深く土下座をするスーツ姿の女性

「…10振りだ

 10振りだけなら、打ってやる…

 だから示せ…!

 私の日本刀が、平和をもたらす所を…!」

 藤原は、そう言うのだった

 スーツ姿の女性は、しばらく頭を上げる事は無く、土下座していた


《時は戻り、現在》

 九州居住区

 地面に倒れたウイングノワールに、切先を向ける佐藤陸曹長

「さらばだ…

 もがれた黒い翼よ…!」

 佐藤陸曹長はそう言い、刀を横に振り切ろうとした時だった

『ドンッ!!』

「!?」

 カバの超生類ちょうせいるいのポポが、佐藤陸曹長の右側から体当たりをしてきた

『ボオンッ!』

 勢いよく吹き飛ばされ、砂煙に包まれる佐藤陸曹長

「…陸曹長!」

 部下の隊員が叫ぶ


「ポポ…」

 呟くウイングノワール

「ノワール…

 ここは一旦、退くぞ…!」

 倒れていたウイングノワールを抱きかかえ、ポポは言う

「…我々の目的は、お前達の抹殺だ

 そう簡単に、逃がす訳ないだろ…!」

『シュンッ!』

 次の瞬間、刀を振り下ろして、砂煙を晴らし、その中から出てきた佐藤陸曹長が言うのだった


「傷一つ、無しか…!?

 なんなんだ、あいつらは…!」

 ポポは呟く

 すると、次の瞬間、佐藤陸曹長は二本目のペン型の注射器を取り出す

「陸曹長、二本目の使用は許可されていません…!」

 部下の隊員の一人が、叫ぶ

「任務遂行が最優先だ…

 許可を待てるか…!

 俺自身の責任と判断で、使用する…!」

 佐藤陸曹長はそう言い、二本目の注射器を逆手に持ち、次の瞬間、自身の首筋に刺すのだった


 シリンジの中身の赤い液体が減っていく

 それと同時に、佐藤陸曹長の顔などの血管が更に浮き上がり、筋肉も張り出す

 佐藤陸曹長はゆっくりと、超生類ちょうせいるい達の方を睨む

『グゥゥゥ…』

 佐藤陸曹長は、とてつもない威圧感を放つ

「…!

 こいつは、ヤバい…」

 思わず、ポポは呟く


 そして、次の瞬間だった

 ポポはウイングノワールを抱えたまま、佐藤陸曹長に背を向けて、走り出し、その場を逃げ出そうとする

なんだ、あの威圧感は…!

 あいつはヤバい、ヤバい、ヤバい…!」

 ポポは、心の中でそう思いながら、必死に走るのだった

 しかし

『ザンッ!!』

「…!?」

 ポポの右足が斬り落とされる

 佐藤陸曹長が、物凄いスピードでポポを追い越し、その追い越しざまに、斬り付けたのだ

『ドサッ!!』

 勢いよく倒れるポポ

 抱えていたウイングノワールも地面に落としてしまう


「クッ…!

 ハアハア…」

 それでもまだ、立ち上がろうとするポポ

 すると、次の瞬間

『ブオンッ!!』

「ウァァァ…!」

 ポポの左肩が、火球で撃ち抜かれる

 佐藤陸曹長が、火球を放ったのだった


なんだ、それは…!?

 最早そんなの、人間がなせる技では無いぞ…!」

 その光景を、地面に横になった状態で眺めていたウイングノワールは、僅かに出せる声で言う

「言った筈だ、我々は“超人類ちょうじんるい”だと…

 異能を持つ生物が存在するのなら、異能を持つ人間だって存在する…

 ただ、それだけだ…」

 佐藤陸曹長は、そう言うのだった

「そうか、そういう事か…

 さっきから感じる、この威圧感の正体…

 お前達が打ったあの液体は、超生類ちょうせいるいの血液だな…!

 それを体内に流し込み、無理矢理、身体強化を図ったな…!」

 ポポは起き上がり、呟く

「そんな事、あり得る筈が無い…!?」

 ウイングノワールは言う

「おそらく…

 一本で身体強化…

 二本の使用で、異能の覚醒…

 …という所か?」

 とポポは、更に言うのだった


「お前は、頭が良い方だな…

 やはり、逃がす訳にはいかないな…」

 佐藤陸曹長はそう言い、刀を両手で持って構えると次の瞬間

『ブオンッ!!』

 日本刀の刀身が、炎に包まれる

 そして

「…烈火」

 ボソッと、佐藤陸曹長は呟いた


『…シュッ!』

 目の前から姿を消す、佐藤陸曹長

「…!?」

 すると、次の瞬間には

「…!」

 佐藤陸曹長の炎を纏った日本刀の刃が、ポポの目と鼻の先にまで迫っていた

 そして

『ザンッ!!』

 ポポの顔が横一閃、真っ二つに斬り裂かれる

「…!

 ポポ…!」

 動けないウイングノワールは、その光景を目に焼き付け、呟く事しか出来なかった

『ボテッ…』

 地面に落ち、転がるポポの顔

 ゆっくりと振り返り、その光景を確認する佐藤陸曹長

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