第22話 抜刀

《九州居住区》

 福岡県の県境に沿って、防護壁が設けられ、守られた場所

 九州各地から避難した多くの人々が生活していた

 また、本州との繋がりを守る為にも、ここの死守は最重要である

 しかし、そんな九州居住区は、超生類ちょうせいるい達の襲撃を受けていた


『タッ、タッ、タッ、タッ…!!』

 戦場を駆け抜ける元競走馬の超生類ちょうせいるい、ウイングノワール

 そして、次の瞬間

『ドゥンッ!

 ドゥンッ!

 ドゥンッ!』

 まるでステップを踏むかのように、3連続で、回転回し蹴りを自衛隊員達に食らわし、蹴り倒していく

『ダンッ!』

 倒れた自衛隊員の胸を踏み付け

「一気に攻め込むぞ…!!」

 ウイングノワールは、そう叫ぶ

「ウォォォ!!」

 それと同時に、あらゆる動物の超生類ちょうせいるい達が、防護壁の中へと一気に流れ込んでくるのだった


《同時刻、関門海峡上空》

 福岡方面へと向かって飛行する、V-22オスプレイ

 その機内

「もうすぐ、九州居住区です…!」

 オスプレイを操縦する自衛隊員が、インカムを通して言う

「了解した…

 総員、出撃準備だ…」

 オスプレイの乗員部分に乗っていた黒い制服姿の男性が答える

 すると、オスプレイの後方の開口部へと歩み寄る、同じ黒い制服に身を包んだ9名の隊員達

「いよいよ、初陣だな…!」

 男性隊員が言う

「下手をこくんじゃねぇぞ、須藤!」

「先輩の方こそ、ヘマしないで下さいよ…!」

 男性と、女性の隊員達が言い合うのだった

「私語は、その辺にしておけ…」

 出撃の指示を出した男性隊員が、最後に開口部へと近付いてきて、言う

 オスプレイの開口部から差し込む光に、顔が照らされる

 光に照らされたその顔は、陸曹長であった


「我々の目的は、超生類ちょうせいるいを抹殺する事だけだ…

 それ以外は全て、死と思え…!

 総員…

 …降下!!」

 佐藤陸曹長が、そう強く言った瞬間

『シュッ!

 シュッ!

 シュッ!』

 次々と隊員達が、開口部から空中へと飛び出していく

『タッ…

 タッ…

 タンタンタンタン…

 シュッ!』

 一番最後に、佐藤陸曹長が空中へと飛び出すのだった


『グゥゥゥ…』

 頭からの前傾姿勢で、落下していく隊員達

 風を切り裂いて、落下していく

 物凄い勢いで流れていく景色、迫る地上

『…バサッ!!』

 次の瞬間、パラシュートを展開する隊員達

 そして、隊員達は降下中に、自動小銃を構える

「総員…

 撃て!!」

 インカム越しに、佐藤陸曹長が言うのだった

『ババババ!!』

 一斉に、自動小銃を放つ


『…ピクッ!』

 ウイングノワールの耳が何かを察知する

「…!?」

 次の瞬間、ウイングノワールは見上げた

 だが

『ドゥッ、ドゥッ、ドゥッ、ドゥッ!!』

 無数の銃弾が弾幕となって、ウイングノワールを含む多くの超生類ちょうせいるい達に降り注ぎ、襲う

 身体の前で両腕を合わせ、防御体勢を取るウイングノワール

 しかし、

『ピシュ、ピシュ、ピシュ…!』

 効く筈の無い人間達の銃弾が、ウイングノワールの身体を傷付けていく

「…!

 ダメージを受けている…!?」


『バサッ!!』

 地上に着地し、パラシュートを切り離す黒い制服姿の隊員達

 目の前には、身体が傷付いたウイングノワールが立っていた

 だが、そのウイングノワールの後ろでは、銃弾に倒れた超生類ちょうせいるいの姿もある

「お前達は何者だ…

 ただの自衛隊員か…?

 それとも…」

 ウイングノワールは聞く

「自衛隊である事には違いないが…

 部隊は違う…」

 佐藤陸曹長は、そう答える

「どちらにしろ、敵だろ…!」

 ウイングノワールはそう言って、傷付いた身体で構えるのだった


「話が早くて、助かる…」

 佐藤陸曹長はそう言い

『シュュュ…、シュンッ!』

 腰に携えた鞘から日本刀を引き抜く

 そして、佐藤陸曹長に続くように、他の9名の隊員達の日本刀を引き抜き、構える

「刀…?

 この時代に…?」

 ウイングノワールは、心の中で思う

「総員、使用を許可する…」

 佐藤陸曹長は、そう言うのだった


 すると、次の瞬間、刀を構えた隊員達はその状態のまま、刀を持っていない方の手で、謎の赤い液体が入ったペン型の注射器を取り出す

「何をする気だ…?」

 心の中で疑問に思う、ウイングノワール

『ポンッ…』

 親指で、注射器のキャップを弾き飛ばす隊員達

 そして、次の瞬間、注射器の針先の向きを逆手に持ち替えると、それぞれ自身の首筋に注射器を押し当て、一気に注入するのだった


『ドクドク…!』

 血管の中に、注入されていく赤い液体

 すると、次の瞬間、隊員達の身体の筋肉が張って盛り上がる

 また、顔や首筋の血管が皮膚の表面上に、浮き上がってくる

「活性化する何かか…?」

 ウイングノワールがそう考えていると、次の瞬間だった


『…ザンッ!!』

「…!?」

 その瞬間、ウイングノワールの左腕が斬り落とされる

 佐藤陸曹長が斬り付け、一瞬にして、背後へ回り込んでいた

「何が起こった…!?

 見えなかった…

 速すぎる…!」

 一瞬の事で、理解が追い付かないウイングノワール

 だが、次の瞬間

『ザンッ!!』

「…!」

 再び、目に留まらぬ速さで、今度は背後から前方へと回り込み、そのすれ違いざま、ウイングノワールの右脚を斬り落とす

「…クッ!」

 右脚を失い、身体のバランスを崩し、倒れるウイングノワール


『タッ、タッ、タッ…』

 ゆっくりと歩み寄る佐藤陸曹長

「その程度か…?

 自慢のスピードは、どうした…?」

 佐藤陸曹長は、ウイングノワールを見下ろしながら言う

「…お前達、何をした?

 あんなスピード、人間に出せる訳が無い…!」

 倒れ込んだまま、ウイングノワールは呟く

 すると、佐藤陸曹長は切先をウイングノワールに向けて、言うのだった

「お前達、超生類ちょうせいるいが進化を望んだように、我々も進化を望んだだけだ…

 お前達が超生類ちょうせいるいを名乗るのなら、我々は、こう名乗ろう…

 人類の域を超えた人類…

 “超人類ちょうじんるい”と…!」

「…!?」

「さらばだ…

 もがれた黒い翼よ…!」

 次の瞬間、佐藤陸曹長は日本刀を横一閃、振り切る

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