第16話 始祖

《とある病院の個室》

『ピッ、ピッ、ピッ…』

 心電図の電子音が響く

 その個室の病室で、眠る一人の男性

 その男性は全身の他にも、顔の左半分を覆うように、包帯が巻かれていた

『…!』

 その男性の指先が、ピクッと動く

 そして、男性の瞳が、ゆっくりと開いていくのだった

 なんてな…」

 酸素マスクを付けたその男性は、ボソッと呟いた


《とある薄暗いエレベーター》

 そのエレベーターに乗るスーツ姿の一人の女性と、謎の黒い制服に身を包んだ一人の男性

「どうかしたか…?」

 スーツ姿の女性が聞く

「いや…

 少し前の日の事を思い出してただけです…」

 と黒い制服姿の男性は、答える

 すると、エレベーターは止まるのだった

「着いたぞ…」

 スーツ姿の女性がそう言うと、ゆっくりとエレベーターの扉が開く

 エレベーターの扉が開くと、そこは、全体がコンクリート造りの大きな空間になっていた

 更にその先には、建物の二階相当の大きさの、とても頑丈な鉄の扉があるのだった

「こっちだ…」

 スーツ姿の女性はそう言い、鉄の扉の方へと歩んでいく


『コツン、コツン、コツン…』

 コンクリート造りのその空間は静寂に包まれていて、女性のヒールの音と、黒い制服姿の男性の歩く音だけが響いていた

 鉄の扉の前に立ち止まるスーツ姿の女性と、黒い制服姿の男性

「この先に、何があるのですか…?」

 黒い制服姿の男性は聞く

「この国の根源そのものさ…!」

 スーツ姿の女性はそう言い、自分の手の平を、壁に設置された端末機器に翳すのだった

 手の平から何かを読み取る端末機器

 そして、次の瞬間

『プシュュュ…!』

 両引き戸の鉄の扉が、ゆっくりと開き出す

「…?」

 開く扉を見詰める黒い制服姿の男性


『…ガシンッ!』

 鉄の扉が開くと、そこに広がっていたのは、薄暗いが広い空間であった

 しかし、正面の壁には、スポットライトで何かが照らされていた

「さあ、こっちだ…!」

 スーツ姿の女性はそう言い、何かがスポットライトで照らされた壁の方へと案内する

「…!?」

 壁に近付いた黒い制服姿の男性は、思わず目を見開いて驚く

「珍しいな…

 小娘以外の人間が、ここに来るとは…」

 そこに居たのは、壁に十字で、磔にされた白い狼の超生類ちょうせいるいであった


「これは、どういう事ですか…!?」

 黒い制服姿の男性は問う

「言葉を慎め…!

 この方は、この国の根源そのもの、天照大御神あまてらすおおみかみ様だ…!」

 スーツ姿の女性は言う

「天照…!?

 そうだとしても、この国は、昔から超生類ちょうせいるいの存在を認識し、隠していたという事ですか…!?」

 声を張り上げて、黒い制服姿の男性は聞く

「それは違うぞ、小童こわっぱ

 我は、我自身を超生類ちょうせいるいだと思った事は無い…

 我自身は、御主等と同じ、一生命体に過ぎないと思っている…

 所詮、超生類ちょうせいるいとは、彼等が付けた名称に過ぎない…」

 天照大御神は答える

「それじゃあ…

 もう少し聞いても良いですか…?」

 黒い制服姿の男性は、再び聞く

「良かろう…」

 天照大御神はそう言うのだった


「天照大御神様から見て…

 超生類ちょうせいるいと名乗る者達は、天照様と同じ存在だと思いますか…?」

 黒い制服姿の男性は問う

「生まれる過程のは違えど…

 同じ存在である事には違わないだろう…」

 と天照大御神は答えた


「では、もう一つ…

 何故、天照大御神様は、そのように拘束されているのですか…?

 天照様は、この国の根源そのものですよね…?」

 と黒い制服姿の男性は言う

「原因は不明だが、ここ20年位…

 我自身が、自分のちからを制御出来なくなってきているからだ…

 そして、それと同時に、この国に災難が降りかかるようになった…

 故に我は今、このような状態で居る…」

 天照大御神は、そう答えるのだった


「事情は分かりました…

 では、俺はどうして、ここに案内されたのですか…?」

 黒い制服姿の男性は、今度はスーツ姿の女性に聞く

「今回、新たに編成される対超生類ちょうせいるい部隊に、天照大御神様がおちからを分けて下さるからだ…!」

 とスーツ姿の女性は答えた

ちから…?

 それは、超生類ちょうせいるい達が使う超能力のようなものって事ですか…?」

 黒い制服姿の男性は問う

「まだ調整中の為、詳細は言えないが…

 ただ言える事は、確実に超生類ちょうせいるい達を仕留めるちからだという事だけだ…」

 とスーツ姿の女性は答えるのだった


「天照様は、それで良いのですか…?

 さっきも言っていましたが、誕生の過程は違えど、同胞である事には違わないと…

 それでは、その同胞達を殺すって事ですよ…?」

 黒い制服姿の男性は、天照大御神の方を真っ直ぐ見詰め、真剣な表情で聞く

「…」

 天照大御神は、少し無言になった後

「構わない…

 我の民を守るのが、我の存在意義だ…

 例えそれが、同胞であっても、我の民を殺す者は敵に違わない…」

 と天照大御神は答えた

 すると、次の瞬間

 黒い制服姿の男性は、片膝を地面に付けて、忠誠を誓うような姿勢を取り

「必ず、この国を守ってみせます…

 天照大御神様の名の下に、この国の民として…!」

 と黒い制服姿の男性は、強く言うのだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る