第15話 深み

《北海道、北部》

 とある夜、辺りが暗闇に包まれた人気ひとけの無い漁港

 そこに止まった1台の大型トラック

 そのトラックの前に立つ一人の日本人男性

 トラックのヘッドライトが、その男性と辺りを照らす

 すると、そんな時だった

 小さな明かりをポツンポツンと灯した一隻の漁船が、暗闇の中、漁港に近付いて来た

 岸に接岸する漁船

 そして、その漁船から、ロシア人らしき外国人男性が三人、岸に上がってくるのだった

「お待ちしてました…」

 日本人男性は言う

「早速だが、例のぶつを見せて貰おうか…?」

 外国人の一人が言うのだった

 すると、日本人男性は大型トラックのウイングサイドパネルの扉を開く

 そして、そこから、ゆっくりと姿を現したのは、大きく頑丈な檻であった

 外国人男性達は懐中電灯で照らしながら、その檻の中を覗き込む

 その檻の中に居たのは、ヒグマの超生類ちょうせいるいのラランであった

 ラランはその檻の中で、うつ伏せの状態で、床に貼り付けにさせられていた

「これが生きた超生類ちょうせいるいか…!」

 外国人男性の一人は、驚いたように言う

「しかも、メスです…」

 と日本人男性は伝える

「何…!?

 それは本当か…!」

「実験に、解剖と…!

 色々し甲斐がある…!」

 外国人男性達は、盛り上がるのだった

 すると

「あと、それだけでは無いです…」

 と日本人男性は言い、大きな檻の横にあったもう一つの檻を見せる

 その檻の中に居たのは、ヒグマの超生類ちょうせいるいの子供、ラタであった

超生類ちょうせいるいの子供だと…!?」

「よく遣った…!

 これは、更に調べ甲斐がある…!」

 と外国人男性達は言う

 だが、次の瞬間だった

『ガシンッ!!』

 檻に噛み付くラタ

「ママを離せ…!!」

 歯を剥き出しにして、檻に噛み付きながら、ラタは言う

「そう騒ぐな…!

 お前も母親同様、調べに調べ尽くして遣るからよ…!」

 と外国人男性の一人は、ラタの顔に懐中電灯の光を当てながら、言うのであった


「では、約束の報酬は…?」

 日本人男性は聞く

「約束通り…!

 むしろ、予想以上の成果だから、上積みしといてやる…!」

 と外国人男性は答えた

 そう言って、握手を交わそうとする外国人男性の一人と日本人男性

 しかし、次の瞬間であった

「Oh…!?」

 突然の悲鳴がする

「…!」

 悲鳴がした方を振り向くと、そこに居た筈の外国人男性の内の一人が、姿を消していた

「冗談はよせ…!

 おい、どこに行った…?」

 外国人男性の一人が呟く

 だが、次の瞬間だった

『シュッ、パシンッ!!』

 海の方の暗闇から、何か触手らしき物が伸びてきて、外国人男性の一人の顔に吸い付くと、そのまま、その外国人男性を暗闇へと引き込んだ

『ジャボンッ…!』

 その男性が、海に落ちたと思われる音だけが響いた

「アアア…」

 日本人男性は恐怖で震え、尻餅を付く

「おい、お前ら!

 武器を出せ!

 海の中に何か居るぞ…!」

 岸に上がっていた残る外国人男性が、漁船に居る仲間達に向かって、叫ぶ

 自動小銃を持ち出し、漁船の明かりを海へと向ける外国人達

 すると、次の瞬間

『ペチャッ!』

 触手らしき物が漁船の縁を掴み、何かがのぼってくるのだった

 自動小銃を構える外国人達

『バシャャャ…』

 ゆっくりと海の中から姿を現したのは、とぐろを巻いた足で、ミシュランマンのような胴体を形成した、人間程にとてつもなく大きな蛸の超生類ちょうせいるいであった

「!?」

「この化け物が…!」

『ババババ!』

 外国人の一人が叫びながら、自動小銃を乱射する

 しかし

『グニョ…

 グニョ…

 グニョ…』

 ゴムのように弾力のある足で作られた胴体が、銃弾を受け止めるのだった

 そして、次の瞬間

『パンッ!!』

 受け止めていた銃弾を一斉に、弾き返す

『パンパンパンパン!!』

 跳ね返ってきた銃弾が外国人達を襲う

『ドサッ…』

 銃弾に倒れる外国人達

「…!?」

 陸地で、それらの光景を見ていた残る外国人男性と、日本人男性は驚くしかなかった


「やはり弱いな、人間共は…!」

 口らしき構造物は無いものの、少しこもった声で、蛸の超生類ちょうせいるいは喋るのだった

「一体、どこで喋ってる…!?」

 と外国人男性は驚きながら、言う

「そんなの口に決まっているだろ…?

 ああ…!

 済まない、君達から見えない所に口が有るのもで…!」

 と蛸の超生類ちょうせいるいは、答えるのだった


『ペチャッ…』

 歩みを岸の方へと向ける蛸の超生類ちょうせいるい

 すると

「それ以上、近付くな…!」

 岸に居る外国人男性は、拳銃を構えた

「近付くな…?

 だが、それは済まない…!」

 と蛸の超生類ちょうせいるいが言った次の瞬間であった

『バシンッ!!』

「ッ…!」

 蛸の超生類ちょうせいるいの手の代わりの足が、ゴムのように伸びてきて、拳銃を構えていた外国人男性を、大型トラックの側面のアオリ部分に突き飛ばし、叩き付ける

「この程度の距離、私には関係ないんだ…

 おっと、力加減を間違えたようだ…!」

 と蛸の超生類ちょうせいるいは言う


『ペチャ…

 ペチャ…

 ペチャ…』

 漁船から陸へと上がってくる蛸の超生類ちょうせいるい

 尻餅を付いたまま、動けずに居る日本人男性

『…ペチャッ』

 そして、蛸の超生類ちょうせいるいは、その日本人男性を見下ろす

「この程度の奴等が、私達の脅威だったとは…

 実に悲しいよ…」

 蛸の超生類ちょうせいるいは言い、次の瞬間、とぐろを巻いて形成されていた胴体部分がゆっくりと緩みだし、大の字に足を上げる

 その中から姿を現したのは、鋭い歯が生え揃った口であった

「さらばだ、人間…!」

『…ハウッ!』

 蛸の超生類ちょうせいるいの足が、日本人男性を覆い被さるように包み込んだ


 再び、とぐろを巻いて、形成されていく蛸の超生類ちょうせいるいの胴体

「…フン

 弱いだけあって、美味しくは無いですね…」

 蛸の超生類ちょうせいるいは、そう言うのだった


「さあ、大丈夫ですか、同胞達…?」

 と蛸の超生類ちょうせいるいは言い、腕力で、檻をへし曲げる

「貴方も超生類ちょうせいるいなの…?」

 ラランは、か細い声で聞く

「私自身は、普通の蛸だと思っているんだけどね…

 端から見れば、そうなのかもしれないですね…」

 と蛸の超生類ちょうせいるいは答えた


 拘束から解放され、座り込むラランと、寄り添うラタ

「助けてくれて、ありがとう…!」

 とラランは言い

「ありがとう!

 えっと…

 蛸さん…?」

 とラタは言うのだった

「名乗っていませんでしたね…!

 私の名前はモンマと言います…

 以後、お見知りおきを…!」

《タイプ:蛸♂

 名前:モンマ》

「では、私はこれで…」

 そう言い残し、モンマは海の中へと帰ろうとする

「貴方は、これからどうするの…?」

 ラランは聞く

「人間共の殲滅こそが、私達、超生類ちょうせいるいの目的では無いですか…?

 故に、は南下するまでです…」

 とモンマは答えるのだった

「では、また

 いずれどこかで…!」

『ジャボンッ…』

 モンマは夜の海の中へと、姿を消した


《生物の域を超えた存在が超生類ちょうせいるい

 もはや、海洋生物も海洋に留まらない…》

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