第13話 愛

《中部防護壁内、その地下施設》

 地下に設けられた司令室

「護衛艦まや、むらさめ、いかづちから、巡航ミサイルが発射された模様…」

 モニターを確認する自衛官の一人が報告する

「総員、衝撃に備えよ…!」

 司令らしき男性自衛官は言うのだった

「着弾まで…

 5、4、3、2、1…

 着弾します…!」

 そして

『ゴンッ!

 ゴンッ!

 ゴンッ!!』

 衝撃で細かく揺れて、軋む地下施設

 更に低く鈍い衝撃音が、絶え間なく響き渡る


《同時刻、住民が避難する地下シェルター》

「いや…!」

「キャッ…!」

 その衝撃音と地響きに、恐怖から悲鳴を上げたり、身を寄せ合う住民達

「ママ…!」

 恐怖する子供達

「大丈夫よ…!」

 自身の子供も必死に抱き締める母親

「きっと大丈夫だ…!」

 そんな子供と妻を、後ろから抱き締める夫


《再び、地下司令室》

『遣られておいてくれよ…

 これで仕留められなければ…』

 司令らしき男性自衛官はそう心の中で思い、戦況を見守りながら、握った拳に力が入る

『ゴンッ!

 ゴンッ!!

 …

 …』

 轟音と、地響きが止む

「遣ったか…?

 映し出せるカメラを探せ…!

 いち早く超生類ちょうせいるい達の状況を…!」

 司令らしき男性自衛官は、強く言う


《同時刻、太平洋上》

 護衛艦まやの艦内

「巡航ミサイル、トマホーク…

 全弾、撃ち尽くしました…」

 自衛官の一人が報告する

「ヘリからの報告は…?」

 艦長らしき自衛官は聞く

「煙がまだ多く、超生類ちょうせいるいの姿は確認出来ないそうです…」

 自衛官はそう答える

 すると、それを聞いた艦長らしき自衛官は、窓辺へと寄っていき、双眼鏡を覗き、遥か遠くに見える陸地を見詰めた

 無数の黒煙が上がる陸地

『これでダメなら、もう手段は無いぞ…』

 艦長らしき自衛官は、そう思うのだった


《中部防護壁内》

 至る所に無数のクレーターが出来ていて、壁内に存在した建物のほとんどが崩れ落ちていたり、燃えている

 中部防護壁内の地上一帯は、荒土と化していた

「この人間共が…」

 そんな荒土と化した地上で、シャローラはまだ生きているのだった

 しかし、右腕と両脚失い、大量に失血していた

 残った左腕も僅かに力が入る程度で、声を出すのも精一杯であった

 立ち込める黒煙の隙間から見える青空

 それを眺めるシャローラ

超生類ちょうせいるいになって尚も、観察される側ではあってはならない…

 故に生き恥を晒すわけにはいかないのだ…!」

 シャローラはそう呟くと、僅かに力が入る左腕で、口元に何かを持ってくる

 そして

「覚えておけ、人間共…!

 私一人が死した所で、我々は止まらない…!」

 次の瞬間、シャローラは手榴弾のピンに歯を引っ掛けて、引き抜くのだった

『…愛しているよ』

 シャローラは心の中でそう思いながら、瞳を閉じた

『…ボオンッ!!』

 一帯が爆発に包まれた


《中部防護壁という安息の地と、多数の自衛隊員を失いながらも、超生類ちょうせいるいの脅威は退けた…

 しかし、超生類ちょうせいるいの死体を一つも回収出来ていない事から、本当にその脅威を退けられたかは分からないのである…》

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