第25話:悪因悪果
「エマール伯爵家は、子爵家へ降爵ですって」
あれから半年。そろそろ今の学年も終わりを迎える。
当事者のフローラより先に情報を得ているレティシアは、裁判を傍聴したのだろう。
昨日はモルガンの裁判だったのだ。
「罰を受けたのは本人だけでは無いのか」
アストリが驚く。
フローラも、言葉には出さないが驚いていた。
「それがね、モルガンが家宝を売り払っていたらしいのよ。しかもそれが王家から下賜された物だったのですって」
あぁなるほど、と教室内が納得の空気になる。
どうやらフローラ達だけでなく、クラス内全員がレティシアの話を聞いているようだ。
「不法侵入・不当占拠よりも、そちらの罪の方が重いわね。貴族籍剥奪の上、国外追放ですって」
死刑の次に重い罰である。
この『国外追放』とは、単に国から追い出されるのでは無く、どこの国も管理していない無法地帯となっている樹海への追放だ。
噂では、樹海には魔物が生息しているので、どの国も触れようとしないのだとか。
樹海の周りは広い荒野であり、徒歩で人間の生活圏へ辿り着くのはほぼ不可能である。
運良く荒野を越えられても、身分証が無い為に他の国へ入る事も出来ない。当然、追放された自国になど、もっての外だ。
同じように追放された罪人達が集落を作っている、という噂もある。
どちらにしても、軟弱なモルガンには地獄だろう。
スパンと処刑された方が楽だったかもしれない。
「シルヴィの裁判も傍聴する気だったのに、日程の発表すら無いのよ。今は平民でも、事件の時は貴族だったのに。裁判無しで極刑になるほどの罪を犯してたのかしら?」
レティシアが首を傾げる。
「私にも詳しい連絡は来てないの」
フローラが困ったように笑う。
嘘では無い。
アルベールは、全て解決した、としか言わなかった。
裁判無しの極刑。
ダヴィドとサロメはそれに当たる。
本来平民だったはずの者が貴族を
そしてレティシアの予想通り、シルヴィも裁判無しの極刑になっていた。
この場合の極刑は、処刑では無い。
残虐で有名な他国の王へ、側室として売られていた。実質上の死刑である。
側室は三ヶ月以上生きていた事が無い。そして、その遺体は遺族が受け取り拒否するほどの酷い状態だと有名だった。
そこまでの罰を受けるほど、酷い事をしたのか? と問われれば、否、である。
ただ単に、その国から「誰かいないか?」と問い合わせが来た時に、丁度シルヴィが罪を犯し拘束されただけ。
まだカイユテ男爵の離縁手続きが受理されておらず、シルヴィが貴族籍に残っていた。平民ならば、他国の王の側室にはなれなかっただろう。
運が悪かった、だけなのだ。
いや、二度目の罪を犯さなければ、そもそも候補にのぼらなかったので、自業自得かもしれないが……。
「ダヴィドがきちんと貴族法の勉強をしていたら、シルヴィは犯罪者にはならなかったかしら」
自室でローズに寝る準備をされながら、フローラが静かに呟く。
独り言なのか、質問なのか迷うところだが、ローズは答える事にする。
「人間の本質は変わりませんから。ダヴィドはサロメとは結婚しなくても、シルヴィを養子にしたでしょう。そしてモルガンはシルヴィと浮気をし、シルヴィはファビウス伯爵家乗っ取りを企んだと思いますよ」
ローズは淡々と話す。
それが余計に真実味を増して聞こえた。
「そういえば、なぜ平民のはずのシルヴィが学園に通えていたのかしら?」
今更ながらの疑問をフローラが口にする。
「あぁ、彼女は生まれた時にサロメの子として届け出はあったのだ。なので、学園にはシルヴィ・カイユテとして入学許可がおりた。ダヴィドがそれを手続き間違いだと学園に乗り込んで、シルヴィ・ファビウスへと変更させたのだな」
あらぬ方向からの返答に、フローラが振り返る。
ベランダへと続く窓が開けられ、そこにアルベールが立っていた。
「ダヴィドとサロメが結婚した時に、彼女も平民になったのだ」
その結婚の届け出をダヴィドがしなかったので、ややこしい事になったのだが。
「お疲れ様です、アル」
フローラが微笑む。
最近仕事が大変なのか、アルベールは帰りが遅い。
フローラが起きている時間に帰れた時は、こうやってこっそりと部屋へ訪ねて来て、少しだけ話をして別邸へと帰る。
それを見越して、フローラは夜着の上に厚手の室内用ローブを羽織っている。
無論二人きりになるわけではなく、ローズが控えている。
「もうすぐ学園の長期休暇だな」
アルベールの言葉に、フローラが「はい」と返事をして頷く。
「今年は、一緒に行こう」
アルベールからの申し出に、フローラが驚く。
学生のフローラと違い、アルベールは特務部隊の隊員でかなり忙しい様子なので、フローラの反応は当然である。
「婚約者の実家に挨拶へ行く、と休みをぶんど……もぎ取……貰ったのだ」
何か不穏な言葉があった気がするが、気のせいだと思う事にしたフローラは、素直に喜んだ。
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