第8話:両親との関係
応接室のソファに座って待つ事およそ10分。
足音も荒く、ダヴィドとサロメがノックもせずに部屋へと入って来た。
「人を呼び出すとは、お前は何様だ!」
いきなり怒鳴り散らすダヴィドに、フローラの座るソファの後ろに控えていた護衛が前へと回る。
その更に前に、フローラ付きの執事が立ち塞がった。
「フローラ・ファビウス伯爵令嬢ですが、何か?」
昔からいる執事には弱いのか、ダヴィドはそれ以上は何も言わずにフローラの向かい側にあるソファへと大人しく座った。サロメもそれに続く。
二人が大人しく座ったのを確認し、執事がフローラの座るソファの横に立ち、護衛は後ろへと戻る。
「それで、用件はなんだ」
ダヴィドは執事の方を見ないようにして、フローラへと話し掛けた。
フローラは簡潔に、学園のパーティーであった事を説明した。
モルガンから婚約破棄を宣言された事を話しても、両親は一切驚いていないのを見て、本当に了承済みなのだと理解する。
それどころか、やっと向こうの家が了承したか! と喜ぶ始末だった。
「モルガンもシルヴィが良いってずっと言ってたのに、なんでこんなのと結婚させようとしてたのかしら」
サロメがフローラをチラリと見て、馬鹿にしたように吐き捨てる。
「……お母様?」
あまりの言われように、さすがにフローラが戸惑う。
「まったく。エマール家の奴らがなかなか了承しないから、一人娘のシルヴィを当主に指名出来なかったが、これで一件落着だな」
ダヴィドが満面の笑みで言う。
「え?」
フローラは意味が解らずに、両親のはずの二人の顔を見た。
「お前は、私達と血の繋がりなんて一切無いんだよ! その幽霊みたいな髪も、気持ち悪い目の色も、私達と似てない時点で気付くだろう? 普通はな!」
「本当にアンタはあのクソ生意気な女にそっくりで、
嫌悪感を隠しもしないサロメは、桃色がかった茶髪に緑の瞳をしている。
ピンクゴールドの巻き髪と鮮やかな緑の瞳が自慢のシルヴィは、間違い無く二人の血を引いていると判る。
「アンタの母親はね、アンタが3歳の時に死んだのよ! 父親なんて生まれる前には死んでるの。まったく、あの女が死ぬ前にモルガンとの婚約を契約してたなんて知らなかったわ」
騙された、とサロメが憎々しげに吐き捨てる。
「私は……家族では無かった……のね」
だから、小さい頃から仲間外れだったのだと、何かがストンと胸の中で落ちるのをフローラは感じた。
フローラはサラサラのストレートの銀髪に、紫の瞳をしていて、両親とされていた二人とは一切似ていない。
しかし壁に掛かっている祖父やその前の祖先達とは同じ色味だったので、深く考えていなかった。
婚約破棄以上の衝撃を受け、フローラは無言では席を立つ。
フラフラと応接室を出て行くフローラを、誰も引き止めなかった。
応接室から廊下へ出た所で、ローズが無言でフローラを支える。
「不味いお茶の心配は要りませんでしたね」
まったく本邸のメイドは質が悪いわね、とローズが
フローラは何も反応出来ないでいたが、ローズの心遣いは感じていた。
一人でいたら、真っ直ぐ歩く事もままならなかったかもしれない。
どこかにぶつかりしゃがみこみ、そのまま泣き崩れていたかもしれない。
家族との関係を諦めていたつもりでも、やはり無意識に期待していたようだった。
別邸に戻ったフローラは自室へこもり、夜着に着替える事もせずにベッドの上で丸まっていた。
物心付いた時から、姉との格差は感じていた。
持ち物や贈り物などには、差が無かった。
しかし両親の態度が違ったのだ。
誕生日パーティーなど、外からの目がある時にはそうでもないが、普段の生活では明らかに邪険にされていた。
食事の横取りがいい例だ。
フローラの食事をシルヴィは平気で横取りしていたし、それを両親が咎める事は無かった。
それを執事が遠回しに注意すると、今度はフローラとは食事の時間をずらしていた。
それでも、家族なのだからいつかはわかりあえると思っていたのに。
成人したら、家を出て行かなくてはいけないだろう。
学園を卒業したら、モルガンとシルヴィはすぐにでも結婚するはずだ。
血の繋がりの無い、邪魔なフローラは、すぐにでも新しい婚約者を決められてしまうだろう。
呑気に天使を待つ時間は無い。
せっかく婚約破棄出来ても、好転する訳では無かった。
フローラは声も無く、ベッドの上でただ涙を流していた。
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応接室の間取りですが
ソファ・ローテーブル・空間・ローテーブル・ソファ
となっており、お互いの席はかなり離れております。
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