脈脈様
恥目司
まるで因習村の怪異というより、外界の化け物じゃないですか
2025年大阪・関西万博の公式キャラクター「ミャクミャク」のモニュメントに傷をつけたとして、大阪府警は××日、同府無職の男(43)を器物損壊容疑で書類送検した。
「終電を逃してイライラしていた。傷つけることで発散した」と容疑を認めているという。
ダンッ!!と机を叩く音が取り調べ室に響く。
「お前……あのミャクミャク様を傷つけたんか!?」
刑事は顔面を蒼白させながら、犯人の男に取り調べを行なっていた。
「ああ、そうやで。でもそれが悪い事なんか?」
男は既に逮捕されている時点で開き直っていた。
「大体、みんなよってたかってミャクミャク様やー言うて騒いどるけどなぁ、あんなのを世界に見せるなんてお前さん達正気なん?」
「あっ……“あんなの”!?」
「アレを作ったヤツのセンスも気になるわ。ダサいってか気持ち悪いねん、そりゃ終電終わりに蹴りたくなるツラしてる方が悪いやろ」
「お、お前……!!ミャクミャク様を愚弄するつもりか!?」
「愚弄て……みんな言うとるやろ。これは民意や民意。お前もそう思うとるやろ?」
しかし、刑事は顔面を蒼白させたまま固まっている。
「ん?なんや?俺の顔に何かついとる?」
刑事は男の方を見ていなかった。
男の右の瞳の奥にいる“何か”を見ていた。
「——ャクさま……」
「ん?」
「ミャクミャク様……」
瞬間、男の右目が爆散する。
「ぎいいいいいやああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!なんや!?なんが起こったぁ!!!!」
椅子から崩れ、悶える男。しかし刑事も尻餅をついたまま動かない。
「おい!!!!お前!!!!何してんねん!!!はよたすけぇや!!!!」
「ミャクミャク様……」
刑事は上の空でずっと、その名前を呟いていた。
手で覆っている眼窩からなにかが飛び出そうと、掌を齧っている。
「いダァッ!?なになになに!?何がァァァッッ!!!!!」
青黒い靄が右の掌を貫通した。
「あああああああああ!?!?!?!?!?」
靄は脈動しながら徐々に鮮やかな青に移ろいでいき男の血液円環にして、その周囲に浮かばせる。
まさか——
男の脳裏によぎったのはいつかの夜にストレス発散で蹴った像。
あの時に傷つけた———ミャクミャク様。
『どどととどどどおおおおおもももももももやあやあやあやあやあやあやあやあここここここここ』
「あ、ああ、助けて……助けてぇぇぇ……」
弱々しい声で助けを求めても、刑事は上の空。
“それ”は青いからだを縦に開ける。
まるで男を喰らわんとばかりに。
捕食の対象はただその瞬間を眺めるばかりだった。
脈脈様 恥目司 @hajimetsukasa
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