インスタントクエスト

 加工屋で金を工面したあと、私はピースフルレイク中のショップを回って装備を整えた。銃と近接戦闘用の武器を少々購入、それと回復アイテムと食料も忘れずに買っておいた。あとはライトなんかの使えそうな雑貨も、荷物の重量制限が許す限り買い込んだ。


「アイテムの準備はこんなとこか。ありがと、タロ」


「また案内が必要になったら呼んでください! 僕はよく南側のスクラップ廃棄場に居ますので!」


 ショップを見て回ったお陰でピースフルレイクの地図は大体頭に入ったから、もう君に頼ることはないだろうとは思うけどね。私は小金を握らせたタロを笑顔で見送る。

 さて、そろそろフユと合流しよう。スカベンジャーの情報網が確かなら、サラサを連れ去った輩の情報も入ってきている頃合いだろう。






「アキねーちゃ! じょーほー!」


「出会い頭から舌ったらずで可愛いわね。情報がどうしたの?」


「犯人がわかったぞ!」


 別行動していたフユとゼインに合流したが、私の目論見通りサラサを誘拐した犯人が分かったらしい。


「ゼイン、犯人について分かったことを話してもらえるかしら」


「うむ」


 情報収集でフユにあちこち連れ回されて疲れたのか、ゼインはクタッと萎れた面持ちで頷いた。


「目撃者の話によると、やはり犯人はギアーズのようじゃな」


「それは分かってる。検問してた自警団もそう言ってたし。他には?」


「犯人は三人組のギアーズで、全員男だったそうじゃ」


「ふむ、続けて?」


「一人は両腕がアームギアになっている男で、そいつは仲間から[アント]と呼ばれていたそうじゃ」


「ん?」


 アント……アントって言ったか?

 アントという名のプレイヤーなら、アッシュポリスに向かう途上で一度遭遇している。アントも両腕がギアになっており、しかも三人組のプレイヤーだった。偶然一致……なわけない。


「それ、間違いないの?」


「うむ。仲間にアントと呼ばれて『迂闊に名前を呼ぶな!』と激昂するのを見た者がおる。これはまだ自警団も掴んどらん情報じゃな。指名手配が遅れてるのがその証拠じゃ」


 一応犯罪を冒したプレイヤーが指名手配されるシステム的ペナルティは存在しているのか。

 ただし話を聞く限りでは、犯罪を取り締まるNPCに犯行の瞬間を見られさえしなければ、指名手配を免れることも出来なくもないのかもしれない。


「アントってギアーズなら、街の外で一回見かけたわ。じゃがパラとソープボーイってギアーズと一緒だった」


「なんじゃ、顔見知りの犯行じゃったのか」


「食料分けてくれたりしたから、良い奴らだと思ったんだけどね。アイツら、ぶち殺し決定」


「アキねーちゃ、言葉がきたないぞ」


「うぐっ」


 妹の前だってことを忘れてた。

 私はどうもゲームの中だと、昔ブイブイ言わせてた頃の性格に寄っちゃうらしい。気を付けなくては。


「で、他に分かったことは?」


「どうやらそいつらは[軍]の関係者らしい」


「軍?」


「解放軍のことじゃが、知らんのか?」


 解放軍……どっかで見た覚えがある。

 どこだったっけか。


「あ、思い出した。確かエリア31を根城にして、アンヘルと戦っているとかいう連中だったわね」


 エリア31とは、ピースフルレイクと同じ五つあるホームタウンの内の一つだ。キャラクリの時に、ホームタウン全部の解説を流し見したけど、そこのエリア31の解説に解放軍がどうとか確かに書いてあった。

 私の記憶が正しいことを証明するように、ゼインが枯木のような首を縦に振る。


「そうじゃ、軍といえば解放軍以外にはおらん」


「なんでアントたちが軍に所属してるって分かったの? 理由を聞かせてよ」


「ソレハ、私ガ説明スル」


 ガビガビの機械音声みたいな声がして、近くの建物の影から、見覚えのある小汚い爺さんが姿を現す。


「あんた……ジミニー?」


 現れたのは、フユを捜索している時に有力な情報をくれたスカベンジャーのジミニーだった。

 しかしジミニーは、数時間前に会った時よりも更にボロボロで見窄らしくなっている気がした。


「ジミニーは、サラサが攫われた時にあの子の側にいたらしいのじゃ」


 ヨロヨロと歩くジミニーを、同じくらいのヨロヨロのヨボヨボなゼインが隣で支える。スカベンジャーの友情は美しいが、ビジュアル的には不衛生なジジイ二人の絵面なのであまり見ていたくはない。

 ともかくジミニーが出てきた理由は分かった。彼が何か情報を掴んでいるのだろう。


「私、サラサ守ロウとシタ」


 初めて会った時よりはスロートギアの調子が多少良くなったらしく、ジミニーが自分の口で説明する。


「デモ守レナクテ、殴らレテ、サラサ、連レテイカレタ」


「……」


「コレ、サラサ守ろうとシテ、アイツらにシガミツイタ時ニ、盗っタ」


 ジミニーが私にカード状の物体を差し出してくる。それを受け取った私は、思わず笑みをこぼす。


[IDカード]

[エリア31/ギア研究開発棟]

[レアリティ:変遷級]


 これは動かぬ証拠だ。


「手癖の悪いジイさんね」


「ワルイヤツからシカ盗マナイ」


 義賊みたいな言い訳をしながらジミニーが笑う。

 ってか、NPCがプレイヤーの持ち物をスティールしてくるとか、結構ヤバいゲームだな。私もスリには気を付けなくっちゃ。

 ともかく、これでサラサ奪還に必要なものそのニである情報は揃った。

 サラサは、エリア31に連れ去られた。


「サラサ、助ケテ、ホシイ、オネガイ」


 ジミニーが深々と頭を下げてくる。

 同時に私の視界にウィンドウがポップしてきた。



『インスタントクエストが発行されました』


[クエスト:欠けた歯車を継ぐもの]



 インスタントクエスト。

 名前から察するに、状況に応じて突発的に発生、生成されるクエストなのだろう。似たようなシステムは別ゲーにもあったから困惑はない。

 それに私の決意はとうに固まっている。


「任せて、あの子は私が責任を持って連れて帰るから」


『クエストが承認されました』

『クエスト:[欠けた歯車を継ぐもの]を開始します』


 さあ、これでますます引き下がれなくなった。

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