なんにしてもまずは金だ
サラサ奪還に向けていくつか必要なモノがある。
まず一つ目、物資。
武器やら回復アイテムやら、その他諸々だ。
所詮ピースフルレイクは始まりの街なので、ここで入手出来る品は限られている。それでも何も無いよりは絶対マシなので、アイテムの調達は必須だ。
そんなわけで、私はピースフルレイクのショップを回って買い物することに決めていた。
フユとはまた別行動。あの子には、ゼインの足になってサラサを連れ去った輩の情報を集めるという重要な役割がある。
その情報という代物が、サラサ奪還に必要な二つ目の要素なのだから、あっちはあっちで重要な仕事だ。
「アナタがアキネさん? ゼイン爺さんに言われて、街の案内をするよう言われて来ました、タロです」
ゼインに頼んでいたガイドは、ガリガリに痩せた骨みたいな少年だった。ちょっと触れただけで折れそうなくらい細い。
「よろしく、タロ。早速だけど、いらない素材とかを買い取ってくれる店に案内してくれない? 出来ればギアーズがやってる店とかあればそこがいいんだけど」
「あ、はい、じゃあ付いてきてください」
タロが迷いなく案内をしてくれる。しかも足がそこそこ早い。いいね、コイツなかなか使える。
ほどなく、[加工屋]と思いっきり日本語で書かれた看板のある建物の前に着いた。
「ここは加工屋さんです。加工屋は、基本的には素材を様々な用途に使えるよう加工してくれる場所ですけど、この店は素材の買取自体もやってくれるそうです。僕はギアーズじゃないから、加工屋なんて使ったことないけど」
「ありがと。じゃまするわよー」
スラムらしいボロボロのドアを景気良く開け放ちながら入店する。外がボロけりゃ建物の中もカビ臭くてなんだか陰気な雰囲気だ。店の奥にある歪な形のフラスコをいっぱい繋ぎ合わせたみたいな謎装置が、店の怪しさを三割増しで増幅させている。しかし店番をしている男はそれなりに清潔感があって、まともそうな見た目をしていた。
「初心者がなんのようだ?」
ベージュ色のワークシャツを着た、黒髪の少年アバターが、店に入ってきた私を見るなり実に友好的な歓迎してくれた。
私のレッグギアを見ただけで初心者と見抜いたのかな。やはり分かる相手にはなんのギアか一目で見抜かれてしまうらしい。私もボルボルのように、ギアを他人から見えなくする工夫がいるだろう。
それは後でどうにかするとして、私は小生意気な少年アバターのプレイヤーに向かい合う。彼の名前は[ラグ]というらしい。
「素材を売りたいのだけど」
「加工じゃなくてか? まあ別にいいけどさ」
別にいいならつべこべ言わずに黙って買い取れ。
……なんて野蛮な言葉は飲み込んで、私はカウンターの上にインベントリから取り出した素材を並べていく。散々NANA拍子から奪い取った素材を。
素材は本来なら武器や防具なんかの材料にしてしまうのが一番なのだろうけど、今の私には装備製作を依頼するだけの金がそもそもない。店で買い物するための金すらもない。だからこうして、今一番使い道のない素材を直接金に変えることで、まずは軍資金を調達する。話はそれからだ。
「どうせ初心者の持ち込みなんて端金にしかならないけど、買取金額に文句言わないでく……れ……」
カウンターに並べられた素材を見て、ラグが言葉尻を小さくさせていく。
「ちょ、[宝石蜂の針]に[ホロウドラゴンハート]!? それに[ケルビムリング]まで!? 全部黄金級素材だし、しかもケルビムリングは天使の部位破壊品じゃないか!」
天使といえば、アッシュポリスで遭遇したスケアード・ビジョンみたいなやつのことだろうか。ナナのやつ、そんなレア素材まで持っていたなんてなかなかやるなあ。
ちなみにケルビムリングは、肉塊で作られた輪っかのような素材アイテムで、天使感ゼロの見た目をしている。この素材を落とした天使の容姿もさぞ神々しかったことが予想されるね。
「いくらで買ってもらえるの?」
「これを買い取るってのは……いや、欲しいけど……本当にいいのか?」
「いいよ、どうせPKから奪ったものだし」
「どうやってさ」
「んー……ビルから落っこちた間抜けなのがいて、私がたまたまそこに居合わせたって感じ?」
「そいつは間抜けだ」
嘘は言っていない、本当のことを言っていないだけだ。
「そういうことなら買い取るよ。でも後で返してとか言わないでよ」
「言わない言わない」
「じゃあ、全部で400kってとこかな」
「……40万? さっきのとこの方が高く買い取ってくれるって言ってたし、やっぱこの話はなしね」
「ま、待って! 分かった僕の負け! 700k出す! レアって言ってもこの程度の数の素材にこれ以上は僕も出せない!」
「オッケー、それで交渉成立ね」
念の為に古典的な引っかけを試してみたが、やはりこっちを初心者だと侮って足元見ていたらしい。まあ70万もあれば元手としては十分だろう。
メニューから取り引きコマンドを操作して、ラグとの売買を成立させた。
「ありがと、じゃあ私はこれで。また用があったら邪魔するかも」
「毎度あり。くく……このケルビムリングを、カイネシスに投入したらどうなるのか、早速試してみよう」
ラグがウキウキしながら、背後にあるフラスコがいっぱいくっ付いた謎装置に近付いていく。
[カイネシス/アルケミックディゾルバー]
[素材加工装置]
[加工方式:アトミックディゾルブ]
[素材の分解・再構成効率:+25%]
[素材ロス:-30%]
[加工時間:-25%]
[特殊機能:ピュアエクストラクション]
[レアリティ:黄金級]
どうやらあれが素材を加工するための設備だったらしい。
レア素材が加工されたら何になるのか興味がないわけじゃなかったが、今はそれよりも優先すべきことがある。私はラグの実験を見届けずに加工屋を後にする。
加工屋の外では、タロが暇そうにしながら空を見上げて待っていてくれた。
「お待たせ」
「あっ、アキネさん。どうでしたか?」
「上々」
二文字で成果を報告しつつ、タロにチップとして1000クレジットを手渡す。タロは手渡された紙幣と私とを交互に見比べてから、ニンマリと笑って私を手招きした。
「次! 次はどこに案内したらいいですか!?」
ははっ、現金なやつ。
こういう分かりやすい生き物は嫌いじゃない。
「ガンショップに案内して。安物の銃を売ってるところで良いけど、ジャンク品みたいなショボイの売ってるような店はやめてね」
「良い店を知ってます! こっち!」
この調子で装備を整えていこう。
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