第16話

「はあはあ、ぜえぜえ……」

「う……やっと止まった……」

「危機」


「さあさあ!着いたっスよ!次の街っス!」

「いやここまであんた寄らなかっただろう。他にも街が見えたから止まってくれと思ったのに全く止まる気配がなかった!」

「細かいことはいいじゃないっスか!あ、俺トイレ行ってきます」

「それが目的だったのか……。はあ、イマドキの若者は自由過ぎるぜ……」

ルノルドが車から出て外の空気を吸う。ラトレルが一番ぐったりしている。あまり長く砂漠を走るのは危険かもしれない。

「ルノルド・エル・レアンドロ。唾液を要求……」

「嫌だね。魔力供給なら魔力入りジュースを飲むんだ。今買ってくるから待っていてくれ」

先程の街よりは発展していないが、似た空気を感じる街だ。周りは砂漠だが、この街の敷地は綺麗に整えられている。

(どんな技術だ)

嫌な感じはしなかったが、発展を素直に喜べるかというとそうではない。そんな感じだった。

「リイコ、動けるか?」

「うん。ラトレルが伸びてるけど、どうしよう」

「まあそいつは魔族だからなんとかなるだろう。ちょっとジュースを買いに行く。一緒に行く?」

「うん」

リイコが車から降りる。

「ラト、ちょっと待っていてくれ。すぐ戻る」

「……りょうかい……」



ルノルドとリイコが街を歩く。

「魔力入りジュースって何?」

「魔族用に売られているジュースのことだ。中に魔力が入っていて、魔力補給が出来る。俺もさっきウサギになって魔力を多く使っちまった。ラトレルと俺と、あんたとマウマウの分も買おう」

「それって私が飲んで大丈夫かな」

「……」

そう言えばそうだ。リイコはこの大陸の人間では無い。

「この大陸の人間なら多少の魔力を含んだものはむしろ健康に良いんだが、そうか、リイコは違ったなァ」

そんなことを話しながらジュースを売っている店を見つけた二人。

「うーん。魔力が入ってない飲み物あるかな」

「いらっしゃい!ヒュウ!お若いカップルだ!」

「えっ!?カップルじゃない……!」

「あ、ああ!カップルなんかじゃないさ!げふんげふん……おにーサン!このジュース魔力抜きに出来る?」

顔を赤くして否定する二人。店員はニヤニヤしている。

「ああ、出来るぜ。だが、魔力は入っていた方がいいんじゃないか?」

「え、何で?」

リイコがキョトンとする。察したルノルドが言葉を詰まらせていると、店員が口を開いた。

「そりゃあアレのときに魔力があった方が……うおっ!?か、顔怖……」

睨むルノルド。

「いいから早く作ってくれ。俺のは魔力多めでね!」

「えっ、じゃあやっぱりそういうことじゃないんですか……?」

「俺は魔族だから多めなだけだ!」


「あ、ありがと」

リンゴ味のジュース(魔力抜き)をリイコに渡す。そういえばツザール村からここまで水しか飲んでいなかった、なんて思う。

「急がなくちゃだが、アイツの運転に長時間耐えられないねェ」

「でも、なんで急に急がなきゃって言ったの?あたしものんびりはしていられないけど、ムキになるほど?」

「すごく嫌な予感がするのさ。上手く言えないが、『永遠の機械』が既に動き始めている気がする」

「……」

「あんたには関係がないだろうが、俺はそれを壊さなくてはいけない。だから、」

「ルノルド、」

「ん?」

「……永遠を否定しないで」

あぁ、まただ。

リイコは永遠を欲している。

「永遠を手に入れたら、嬉しいよ」

「俺はそうは思わないね」


「じゃあ、あたしが止める!」


「えっ?」


「ルノルドの野望を、あたしが止めるから!」


面食らう。ここまで一緒に旅をしてきた仲だ。ルノルドの旅の目的も、リイコには分かっているはずなのに。


「くくくっ、あんたが俺を止める?」

「何笑ってるの!?あたしにだって出来る!2mのウサギを止めることくらい簡単!」

「ギャハハ!そうかよ!じゃあ……」


「じゃあ、あんたが最後の相手かもしれないね」


「……!」


リイコが目を丸くする。一瞬言葉に詰まったが、慌てずに深呼吸。

「中央に行くまででルノルドの弱点を見つけてやるんだから!」

「おっと、そりゃあ怖いぜ!ギャハハ!!」

「舐めないで!!あとその笑い方、なんか嫌!」

「ギャハハ!これはもう仕方ないさ!宿命ってヤツぅ?」

「意味わかんない!」


「あ、あのお……ジュースできましたぁ……」

気まずそうに店員がジュースを差し出した。

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