第14話

「……で、あんたは賭けに負けて大金をスッた挙句、宝物とやらも奪われちまったと。そういうわけだな?」

「そうっス……」

ルノルドが大きなため息をつく。

「そんなの知らないね!あんた自身で解決してくれ!今はそれどころじゃないのさ!」

「え、あたしたち急いでたっけ?」

「急用無し」

「無しじゃない!まあたしかにさっきまではそんなに急いではいなかったが、たった今事情が変わったのさ」

「え?」

「事情、っスか?」

「急いでストワード中央に向かうのさ。今までよりも早く行かないと、手遅れになるかもしれないからな」

キョトンとするリイコ。

「手遅れって、何が?」

「だーっ!!!説明してわかるものじゃあないかもしれない!だから、とにかく、コイツは放っておいてだね……!」

「それ、あの塔に関係あるっスか?」

「え?」

青年の言葉にルノルドが驚く。

「やっぱし!あんたも『そう』なんスね!」

「あんたもって?」


「俺は、マウノネオ・エル・レアンドロ。皆からはマウマウって呼ばれてるっス!さあさあ!俺を助ける気になりましたよね!?」




〜路地裏〜


「もう一度確認だが、塔の中に入るんだね?」

「そうっス!俺の宝物を奪ったヤツらは、塔の中にいるんスよ!」

マウノネオの言うことが正しいかは分からない。しかし、遠くとも血の繋がりがある……名字が同じならば、助けないという選択肢を選びにくい。それが人というものなのかもしれない。ルノルドはマウノネオを改めて観察した。

黒髪に疎らな金の髪。瞳の色は深い青だった。思わず父アントナの色を思い出す。しかし、雰囲気はいかにも最近の若者といった感じだ。おそらく、レアンドロの意味も知らずに生まれてきた世代だろう。

(だが、コイツは俺の名字を当てて来た)


―おにーサンも、俺と同じですよね?レアンドロって名前なんじゃないですか?どうです?当たってます?


―俺、あの塔を見ると寒気が止まらないんですよ。それで、宝物を奪い返しに行けなくて……。


―でも、おにーサンが来てくれて良かったっス。ほら、同じ名字なら、協力とか……ね?


「……あんた、レアンドロの名字を持つ者はあの塔に近づくと寒気がするって言っていたよな。だったら、俺も入れないんじゃない?」

「……あ」

「えっ」

「たしかに。そうっスね!ギャハハ!思いつかなかったっス!」

「え!?素で!?素で気づかなかったの!?」

「素っス」

「すっす……?」

リイコが翻訳に困っているのを横目に、ルノルドが頭を抱える。

「だーっ!!!入れないんじゃあ意味ないじゃないか!やっぱり無しだぜ!」


「……」

マウノネオがルノルドをじっと見つめる。

「あんたたち、電車に乗れないんじゃないですか?」


「なっ、何でそれを」

「当たりっスか!?じゃあじゃあ!俺の宝物、ちょっと貸してあげてもいいっスよ!」

「そうだ。宝物って何なの?」

リイコが聞くと、マウノネオは口角を上げた。

「俺の大切なキャンピングカーっス!父サンに買って貰った、大きいヤツっスよ!」

「「「えっ」」」

「急いでるって言ってたし、喉から手が出るほど欲しいんじゃないっスか!?最新型だから砂漠の上だって走れますよ!ストワード中央までビューンっス!」


「さあさあ!協力したくなっちゃったでしょ!?」


「う……。たしかに魅力的だが、それを取り返す方法が……」

「ルノルド・エル・レアンドロ。私に考えがある」

「言っておくがあんたも該当者だぜ。塔の中には入れない」

ラトレルの天然ボケにまで付き合う気は無い。ルノルドはそう言いたいのだ。

「理解済み。レアンドロ不可能。ならば」

ラトレルがリイコを見る。マウノネオとルノルドも……。


「えっ、あたし?」



〜塔 近く〜


「無関係なリイコサンを巻き込んですみません。でも、これは完璧な作戦っスよ!」

マウノネオは上機嫌だ。

「ギャハハ!俺たちで、目にもの見せてやるっス!」

「ほんとに上手くいくのかね……」

「ルノルド・エル・レアンドロ。リイコを信じよう」

ラトレルも良い笑顔だ。

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