第4章『理想のシャフマ』

第13話

「まだシャフマ?」

「あぁ」

「……まだ?」

「シャフマというのは砂漠という意味だと説明した気がするんだが……」

一面の砂漠。リイコは痺れを切らしそうになっていた。

「昔の人はこの距離を歩いていたんだぜ」

「昔の人って、いつ頃まで?」

「300年前さ」

「すごい昔!」

「……そう?」

「ルノルド・エル・レアンドロ。あそこは砂漠では無い。目的地だろうか」

「えっ!?本当!?」

ラトレルが指し示す先、そこには大きな街が見えた。

「おっ。あそこは300年にシャフマ王宮があった土地だぜ。シャフマに変わりは無いが、今は都会になっている」

(……にしても、変わり過ぎじゃないか?俺が50年前に来たときにはあんなにギラギラしてなかったと思ったが)

「行こう!美味しいものがあるかもしれない!」

「あ、あぁ。あんた急に元気になったね……」


街を歩く。『たった』300年前まで、ここにはシャフマ地区の人間以外はほとんど住んでいなかった。砂漠の真ん中の都市は発展に限界があり、都会のストワードの人間からは無視されていたのだ。

皆が魔法を使い、それぞれの生活を営んでいた。魔族の存在も、魔法の正しい使い方も、シャフマ語で書かれた本の読み方も、知らない人間で溢れていた。

ここにあった王宮が跡地になり、シャフマ地区と改められてもそれは変わらなかった。当時の大統領アントワーヌ・レイ・ストワードの……いや、元シャフマ王子アレスト・エル・レアンドロの意向だった。


―シャフマは最低限で良い。


―アレスト、それではシャフマは今のままになってしまうぞ?


―貧しいのは良くないが、発展し過ぎるのも考えものだろう。腹八分目までで充分さ。いっぱい食うと動けなくなっちまうからね。


「……」


(俺の曾祖父さん……アレストはこの状態になることを恐れていたのか。だとしたら……)

(もうここはシャフマじゃないのかもしれない)

ルノルドは目の前の光景に呆然とすることしか出来なかった。



「ねえ!ルノルド!あの大きな建物は何?高い塔みたいだけど……ルノルド?」

「……あぁ、そうだな。アレは……」


「アレは、何だ?」


王宮の跡地。その場所に、高い塔が建っている。ジッと見ていると、背筋に悪寒が走った。大きな体を震わせ、思わず顔を逸らす。

「どうしたの?」

「……知らない。俺が前に来たときにはなかった」

(と、いうか、何故今まで気づかなかった!?砂漠をずっと歩いていたんだぜ!?あんな高い建物に気づかないわけがないだろう……!)

(そもそもこんな大きな建物を建てるって話があるならヤスたちからも何かしら話を聞いていても良いはずだ。村でずっと仕事をしていた俺はともかく、ストワードから俺のいる村まで何度も往復している人間が何も言わないのは不自然だろう……!おかしい。何かがおかしい……!)

嫌な汗が流れる。何かとてつもなく嫌な予感がする。『永遠の機械』の話を聞いたときも何か引っかかったが、まさか。

(まさか、アレがそうなのか?だとしたら……!)


「ちょっとそこの人ー!!!」

「……ん?」

大きな声に、リイコとラトレルが振り向く。向こうから青年が走って来た。

「た、たすけてください!俺を今すぐに!」

「ええと、どうしたの?っていうか誰?」


よく分からない青年に助けを求められてしまった。ラトレルは翼をパタパタさせる。リイコは「これってこの大陸だと普通なのかな?」とラトレルに小声で聞いた。


「話はあとあと!とにかく、緊急事態ってヤツっス!おにーサンたち、たすけてください!」

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