第12話

第12話


〜ニチジョウ〜


夜。この街の電気が消えることはない。

「コンバンハ、良い酒はあるかい?」

「あら、また来てくれたの?」

「……ああ」

目深に被ったハットを指で押し上げ、ウィンクする。しかし、かっこつけたその顔はすぐにギョッと歪められる。

「ノボルちゃ〜ん!待ってたわよ〜ん!」

「お、俺も会いたかったぜ。ははは……」

ギラギラとした看板のバーを入ると、そこは別世界。『かわいい』が溢れた……。

「どお?今日のメイク!やっぱり時代はオーバーリップよね〜ん!」

いわゆるオネエ……そう、ここは強い女の子こそがかわいい世界。

「あ……ああ、そうだね。ええと、とりあえずいつものカクテルを一つ」

「は〜い!」

「……今日はアイツはいないのかね」

店の中を見回す。いつも接客してくれるあの人を探す。

(なにか良い情報が得られればいいと思って来たんだが、毎回上手くいくとは限らない、か)


「あ、ノボルさん!お久し振りです!」


「おっ!」


同じ黒髪、大柄なノボルよりも更に一回り大きな体。メイド服に身を包んだ、わがままボディの……。


「ウェイン!会いたかったぜ!」


「はい、ノボルさん!今日もアレですね!?」


元気な声、ポニーテール、ピンク色の瞳。彼はウェイン。この店一番人気のメイドさんである。


「そうさ。アレ。……『砂時計の王子』についての情報を」

「はい!ノボルさんは直接のご子孫なのに、全く知らない『砂時計の王子』の情報ですね!」

「し、知らないから聞きに来ているのさっ……!そんなこと言わせるなよ……!」

「はい!問題ありませんよ!ノボルさんが『砂時計の王子』についてしつこく聞き過ぎてご両親から呆れて勘当されようと、僕はノボルさんの味方ですから!」

「ま、まだされていないから……。そんなことより、情報をくれ。俺の何が足りないか知りたいのさ」

「うーん!!!そういうところでしょうか!」

「だ、だからなんなのそれ!それが知りたいのさァ!」


ノボル・エル・レアンドロ。レアンドロという名字を持っていても、300年も昔に消えたという『砂時計の王子』の真相を知ることが出来ない人物もいるのだ……。


ノボルは赤くなった頬を隠すように俯き、ため息をつく。耳につけた砂時計型のピアスが軽い音を立てて動いた。

(『砂時計の王子』……俺はいたと信じているぜ。直接会った人だってまだ生きているだろう)

もう少ししたら300年生きる魔族でさえ『砂時計の王子』を、知らなくなってしまう。

(『砂時計の王子』はロマンさァ!俺はそこにいつか辿り着く……!)


「はい、マタタビ・カクテルです!!……あれっ!?匂いだけで伸びちゃいましたか!?」

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砂時計の王子 4 まこちー @makoz0210

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