第3章『中央への旅路』
第9話
〜翌朝〜
「ねえ!起きて!ルノルド!」
「ん……なんだ?朝?」
朝になっているようだ。カーテンを開けられる。目の前にリイコのかわいらしい顔。寝惚けた頭で見つめていると、目を逸らされる。
「電車がちょっと止まるみたい」
「ふーん。大雨でも降ったのかね。雨季はまだのはずだが」
「違う。あのね、機械の部品を取り替えてるんだって」
「ん?何故今そんなことをする必要が……」
「な?俺の言った通りだろ?この部品に取り替えちゃえば、全部直るんだって!」
「……直る?」
外から甲高い少年の声が。ルノルドが耳をピクリと動かす。
「たしかに直った!昨日動かなくなって、今日一日電車が止まるかと思ったけど……坊やのおかげで動きそうだよ!ありがとう!」
「俺は坊やじゃない!ま、感謝されるのは良いけどさ?」
「……ちょっと行ってくる」
「え、ルノルド?」
ルノルドが電車の外に出る。熱砂。まだまだ砂漠を走っていたようだ。
外にいたのは、乗務員と……ふわふわの髪の少年だった。
「おい、あんた。今この電車を直したのか?」
わざと低い声と強い口調で問う。190センチ近い男の剣幕を、少年は鼻で笑った。
「ふんっ、そうだけど?何?俺の技術が羨ましいのかよ?」
「随分簡単にやっていたようだが、しっかり機械を見たんだろうね?」
「見るなんて古臭いなあ……この部品を使えば一発で直るのにさ」
「部品?」
「オジサンは知らないか……まあ最新の技術だし仕方ないけどさ。この部品は『永遠』に機械を動かすことが出来る。直した上に永遠に動かせるなんて最高だろ?」
「『永遠』ねェ……嘘くさいなァ」
「ま、信じなくてもいいけどさ?乗務員さん、電車を動かしてみてよ。このオジサンは置いていってもいいみたいだし?」
「なっ……!」
少年がクスクス笑う。渋々電車に乗るルノルド。
「おお!本当に動いた……!」
「だろ?オジサンも俺の技術を認めたよな?」
「……『永遠』かどうかは分からないさ」
「この部品は、大陸中で使われることが決定してる。そのうち、知らないのはオジサンだけになる。っていうか……オジサンは修理工なんだろ?使ってないことが既に時代遅れかもな?」
「ぐっ……。いちいちイライラさせるなァ」
(しかし……たしかに電車は動いている。あの部品を一つ取り替えただけで?そんな簡単に直るものなの?)
「ルノルド!電車動い……あっ!?」
「あっ!?」
リイコと少年が同時に声を上げる。ルノルドは首を傾げた。
「ん?あんたたち、知り合い?……ってことは、」
「リイコ!やっと見つけた!社長が探してた……ぜっ!」
少年の靴が形を変える。宙に浮き、すごいスピードでリイコに向かう。
「きゃあっ!?な、なんでジュンキチがここに!?」
「それはこっちのセリフだ!大人しく捕まれー!」
「る、ルノルド!助けて!」
「え!?な、何この急展開!俺はあんたを助ければいいの!?」
「そう!そう!助けて!」
とりあえずリイコと走り、少年……ジュンキチと距離を取る。
「助けるってつまり、俺が囮になるってことだよねェ……」
ため息。よく見るとリイコの靴も変形している。謎技術ではやく走れるようだ。それでも体力は奪われるらしく、息が上がっているのが分かる。
「……リイコ。とにかく外に行っておいてくれ。俺も後で向かう」
「わ、分かった!」
「分かったってあんた、ちょっとは心配とかしないの!?」
「はあっ、はあっ……し、しないよ。だってルノルドは強い……んだよね?」
「……っ!もちろんさァ!」
リイコが寝台列車の大きな窓を突き破って外に逃げる。それを確認したルノルドが立ち止まって両手を前に突き出した。
「ふーっ……!あまり爆発は起こしたくないがねェ……!電車だって機械だ!傷つけたくはない!威力は一番小さいものを出すぜ……!」
「まさか俺、舐められてる?小さいものを使うって、子どもをバカにするなよ!」
「いや……舐めてないさ。あんたのその謎技術は得体が知れない。だから本気を出す!」
ルノルドが深呼吸をする。ジュンキチはニヤリと口角を上げ、腕部分を変形させて武器を取り出した。変な形だが銃のようだ。
「こっちは最高威力でぶっ飛ばす!」
「うおおお!?そんなもん撃つんじゃない!電車が壊れちまうだろう!いや、電車だけじゃない!他の知性体も巻き込まれるぜ!」
「全部元通りにできるって、さっき言っただろ?行く……ぜ!」
ジュンキチが武器を構える。そのときだった。
「……は?」
一瞬でルノルドの姿が消える。見失ったのだ。
「なんだ!?あのデカい男を見失うわけ……!はっ!?」
「悪いね!」
桃色の前髪、黒い短髪、そして真っ赤な瞳の少年。ジュンキチと同じくらいの年齢の姿をしたルノルドが、懐に入り込み、強い力でジュンキチの体を押し倒していた。
「ひっ!?な、なんだその技術は!」
「威力は小さい。修理は一点集中が重要だからな!動いたら……急所に当たっちまうかも、ね」
「……!」
爆発音。たしかに威力は小さかったが、子どものジュンキチの意識を失わせるには十分だった。
「リイコ!無事か!?」
「ルノルド……!」
砂漠の真ん中で突っ立っていたリイコ。他に追っ手がいなくて良かったと胸を撫で下ろすルノルド。
「隠れるところがなかった……」
「うん。それは、仕方ないなァ」
周りを見渡しても砂しかないのだ。
「……もう電車は無理かも」
「他にも追っ手がいるの?」
頷くリイコ。ルノルドは本日二度目のため息をつく。
「さっきみたいに電車の中で捕まりそうになったら、大変だから……」
「まあたしかにそうだな。ジュンキチってヤツ、電車をぶっ壊して他の知性体を巻き込んでもいいって態度だったしなァ……」
「ごめん、ルノルド。やっぱりあたしは一人の方がいいみたい」
「服もご飯も教えてくれたし、もう一人で目的地に向かえる。今までありがとう」
リイコが俯いたまま言う。
(行かせていいの?いいわけないだろう)
(リイコがどんな女かは分からないことが多いが、あんな得体の知れない技術を持つヤツらに追われているんだぜ?)
(俺が、護らなくちゃだ)
「……リイコ、」
「ルノルドは電車で向かえばいいよ。じゃあね」
「じゃあねって!あんた……!」
思わずリイコの服の裾を掴み、引き止める。
「あんな得体の知れない技術を持つヤツらに捕まったら何をされるか分からないだろう。危ないぜ……」
「ルノルドだって危ないよ!」
「俺は大丈夫さァ!結構頑丈だからね!あんたは……弱そうだから、危ない」
「はあ!?あたしはこの服を使いこなせるし、向こうの技術だって知ってるものは多い!対策くらい……っ」
「いいから、俺と一緒にいればいいだろう!あんたのこと、放っておけないんだ……!」
「だから、一緒にストワード中央に向かおう。俺が護るから、泣くんじゃない……」
「な、泣いてない!あんたが泣いてる癖にっ!」
「はあ!?こ、これは砂が目に入ったのさ!」
「あたしだってそうだから!いいから、急ご!はやく!」
「そっちは逆方向だ!こっち!」
「わ、分かってたんだから!わざと!!」
「えぇ……?全く……あんたは意味の分からない女だぜ!」
「そっちこそ!」
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