第10話
砂漠の真ん中に取り残された二人は、東を目指して歩く。
「この服は快適だねェ」
「これ着てなかったら倒れてたかもってくらい日差しが強いね」
「シャフマだからなァ」
「シャフマ……砂漠って意味なんだ」
「ああ、そうだぜ。ストワード古代語だが、今でも使われる言葉さ」
しばらく歩くと、小さな街に着いた。
「少し休もうか」
「うん」
ルノルドがリイコの腰に手を回す。
「きゃっ!?さ、触らないで!……?」
ルノルドが顎で指し示す先。五人の男が街の入口で屯している。
「おうおう、お兄ちゃんたち!くっついて歩いて楽しそうだなあ!通行料置いて行けよ」
「通行料なんて、中央政府が許していないだろう」
「俺たちが勝手にやってるからな!」
「……ダメだ。このやり取りだけで会話にならないと分かっちまった」
「あ?舐めてんのかあ!?」
見るからにチンピラである。ルノルドは咳払いを一つ。
「はあ……いつになったら子どもの姿に戻れるのかね、俺は」
「何ブツブツ言ってんだ!金を出せねえなら、力づくで奪うぜ!」
「えー、やっぱりこうなるの?」
リイコが震えている。
「俺さァ、あんたたちよりも結構デカいぜ?見たらわかると思うがね」
ジュンキチには使わなかった力。シンプルな暴力。気は進まないが、リイコを護ると決めたのだ。ついさっき。
(んー、しかしどうするかねェ。目立つことはしたくないんだが)
この街で飯を食べ、宿を取るつもりだったのだ。騒ぎを起こして怖がられたら次の街までまた歩かなければならない。
「ルノルド……」
「だーっ!分かってる!あんたは隠れていろ!」
もうやるしかない。リイコを抱っこして次の街まで走ればいいのだ!ルノルドは大きく息を吸い込んだ。
腰を落とし、集中したそのとき。
「戦闘の終了を要求する」
―バサッ……!!
「え、なにあれ」
リイコが息を呑む。大きな影が辺りを暗くした。
「ルノルド・エル・レアンドロ、発見した」
「やっと、遂に、私は」
黒い髪、水色の瞳、白い肌。そして、真っ白な翼。
「あんたは……!!おお゛う゛っ!?」
それが、一直線にルノルドに向かって急降下してきたのだ。
当然、爆風が起きる。飛ばされるリイコとチンピラたち。
「はあっ、はあっ、しぬかと思った……」
「ルノルド・エル・レアンドロ。私を覚えているだろうか」
「覚えてるも何もあんたは俺の遠い親戚だろう!いつも突っ込んでくるのやめてくれ!」
「ふふっ、ルノルド・エル・レアンドロ……」
長い下睫毛、泣きぼくろ。
「だーーーっ!!離れろ!!!」
「拒否する。やっと会えたのだ」
「あんたの愛は伝わった!充分ね!だから離れてくれ!うっぷ!鳥くさい……」
抱きついて離れない。泣きそうな顔になるルノルド。
「ひ、ひいい!?わけわかんねえ鳥人間!!」
……チンピラには刺激が強かったようだ。見ると、リイコも口をパクパクさせている。
「悪い。コイツは俺の親戚なんだが、鳥と一緒に育ったせいでスキンシップが過激でねェ。俺も手を焼いているのさ」
「は、裸……」
リイコが真っ赤になっている。
「まあ別に上裸自体はこの大陸では問題ないんだが……ラト、外に出るときは服を着てくれ。頼む」
「分かった。従う」
ラトと呼ばれた魔鳥族の男がルノルドの上着を奪って着る。
「それは俺の服!……はあ……。そこの店で買ってやるから返してくれ」
「とても香ばしいにおいがする。ルノルドの体のにおいか?」
微笑んでそんなことを言うものだからたまらない。リイコが更に赤くなる。
「だーーーっ!!リイコ!そいつがどこかに行かないように見ていてくれ!すぐ服買ってくる!」
「わ、分かった」
ルノルドが服屋に入る。ラトはルノルドの上着に鼻を突っ込んで容赦なく嗅いでいる。
「……」
思わず無言で引くリイコ。
(と、鳥に育てられるとかあるんだ……)
(でも……)
ゴクリ、自然と喉が動く。
「私にも少し嗅がせて欲しい……」
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