第2話

「ヤス!買い出しだ!」

「えー。俺っちが肩車……」

「今日はワタクシがやりマース!」

「い、いや、ヤスがやるからいいぜ。あんたは荷物を持ってくれ」

ルノルドが背中を丸める。と、一瞬眩い光が彼を包み、小さな少年が現れた。

「行くぜ!」

ヤスに飛びつき、肩車をしてもらう。黒く短い髪、桃色の前髪、真っ赤な瞳。

「やっぱりその魔法すごいデース! ワタクシも子どもになりたいデース!」

「ルノルドしか使えへんからなあ」

「喋ってないで進むぜ、ヤス!」

「あー、はいはい」

ルノルドは自分の体を少年にすることができる。この力は彼特有のものだ。

(いろいろ便利だぜ。いろいろと、な)


三つの王国の歴史が終わりを迎え、大陸統一国家になってから約300年。

砂漠地帯にある旧シャフマ王国、シャフマ地区は、その姿を大きく変貌させていた。

道は整備され、大量の物が道路を行き交う。人間も、魔族も、そして機械も。誰もこの砂漠地帯が不便などと思わない。

(そりゃあストワード中央に比べれば、まだまだ発展途上ってところだが)

便利になったこの地域は、昔よりもずっと豊かになっていた。




〜ツザール村〜


「オジサン、この金属を100グラム頼むよ!」

「おお!かわいい坊やだ。お兄ちゃんとお姉ちゃんとおつかいか?」

「そうだよ。ボク、おつかいが得意なんだ」

ヤスは黙って見ている。ランチェスは隣にある髪飾り屋に釘付けだ。

「偉いなあ。ちょっとオマケしておいてやろう。お父さんとお母さんにこの店をよく言っておいてくれよ」

「くくっ、アリガトウ」

50グラムも多く手に入った。ヤスが小さくため息をつく。

「きゃーっ!ルノくーん!かわいいー!」

五人の女性が駆けて来る。

「お、おおおおお踊り子のお姉サンたち……!」

「また来てくれたのね?」

「一緒に踊りましょうよ?」

ツザール村の伝統的な衣装は布が少ない。昔は少年しか踊りを許されていなかったらしいが、今は誰でも習うことができる。砂時計はなくなったが、踊り子は正しい砂時計の歴史を語る存在として必要なのだ。

「あ、ああ……っ。た、たまには、踊るのもいいかもしれ……」

「あかんでえ。ルノくんはまだおつかい残っとるんやあ」

ヤスがあくびをしながらルノルドの首根っこを掴む。子猫のように運ばれるルノルド。

「何やっとるんやあ。すうぐ女性について行こうとするんやからあ。世話焼けるわあ」

「ち、違う!少し踊りたくなっただけだぜ!」

「あー、はいはあい。んじゃあ、そろそろ帰るでえ」

「二人とも!見てくだサーイ!砂時計の模様の入った髪飾りゲットデース!」

「すっかり観光資源にしちまっているな……。まあ、もう300年も経っているんだ。当然か」

「シャフマ激動の時代をまるで見てきたかのように語られてもなあ。説得力がないでえ」

「俺の曾祖父サンだぜ。『砂時計の王子』は!そしてあんたの、ひいひいひい……」

「あー、俺っち分からへんなあ。計算苦手やもおん」

「化学者だろう!」


他愛のない会話をしながら帰路に着く。ルノルドは歩幅の違うヤスの背中を見つめながら歩く。

(ずっと、変わらないな)


ヤスの父親とも、その父親とも、ルノルドはこうして過ごしてきた。

(変わらなくていい)

深呼吸して、早足で歩く。

(俺はずっとこんな平和な生活をしたい)

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