第1章『シャフマの修理人』
第1話
毎日、毎日、毎日。ルノルドの暮らす家には大量の機械が運び込まれる。機械たちによって。
「アリガトウ。あんたたちも怪我したら言ってくれよ。生きたいのなら、俺が直すぜ」
そう言ってキスをする。ロボットの額に。
「機械タラシ……」
「ヤス!あんたも手伝え!」
「えー。俺っちは油つくってくるわあ」
「あ!また!!」
『充電シテクダサイ』
「おっと!気づかなくて悪いな!充電器っと……」
ルノルドが充電器を取りに自室に向かった。その隙に逃げるヤス。
「ふああ……朝は眠くてダメやわあ」
「ルノルドサーン!ヤスサーン!!!」
「あーあ、なんやうるさいのが来たわあ」
金髪ポニーテールの女性。今日も薄着で走って来たようだ。遠くから。
「うるさくないデース!ストワードでは女性は大きな声がモテるのデース!!」
「俺っち初耳やでえ。ここはシャフマやけどお」
「そんなことより!もっと機械いっぱい運びマース!ワタクシがお手伝いしマース!」
体を動かしたくてたまらないのだろう。既に跳ねて動いている。
「んじゃあお嬢ちゃんに任せるわあ。機械ちゃんたちと同じくらい働ける人間なんて、そうそういないからなあ」
「やりまシタ!」
「まだやでえ。今からやでえ。あっもういなあい」
全力疾走で機械を持ちに行く。いつも元気だなあと思う。
彼女はランチェス・レイ・ストワード。今はなくなってしまった王国の末裔だ。活発で男勝りな女性。体を動かすことがなによりも好きなタイプだ。実験や機械弄りで部屋にこもりがちなヤスとルノルドとは大違い。
「ルノルドとは遠い親戚やもんなあ。手伝いに来てくれて大助かりやわあ」
ルノルドの仕事は一人でやるものだ。だから他の機械や人間の手伝いは不可欠。
「俺っちも油とかつくっとるからなあ」
ヤスは機械用の油などをつくっている。ルノルドが機械を修理するために使うものだ。
「ふあー……まあ、今日のところはランチェスに任せてえ、俺っちはねんねやわあ」
そうぼやき、廊下を歩く。途中で何体もの機械とすれ違った。みんな様々な機械を抱えている。
(俺っちにはサッパリやけどお、ルノルドはそれぞれの生きる意思を見てるんやなあ……)
生きる意思。凄腕エンジニアのルノルドは、機械のそれを尊重する。
だからむやみに修理はしないのだ。
(あ。あのロボット。愛玩系やなあ。犬の形)
ルノルドの自室に運び込まれたうちの一つは犬の形をしたロボットだ。
「……んー……」
ルノルドはそれをまじまじと観察する。
「どうデス?ワタクシはかわいいと思いマス!」
「そうだな……。おっと、これは、」
頭が凹んでいるようだ。
「頭、怪我デスカ?」
「あぁ、これはぶつけて怪我したものだね。だが」
凹んでいる場所には剥がれかけた絆創膏が。
「相当昔に貼ったんだろうな。この持ち主は90歳らしいが、子どもの頃からこの愛玩ロボット犬をずっと大切にしていたのがわかる」
「す、素晴らしいデース!!!」
「俺もそう思うぜ。持ち主はきっとあんたに生きて欲しい。だが、それはあんたには関係の無いことだ」
ルノルドがロボットの瞳をじっと見つめる。
「あんたはどうだ?あんたはまだ生きたいか?教えてくれ」
「……」
ランチェスも、(部屋の外にいる)ヤスも、息を潜める。
「……そうか。あんたも生きたいんだね。わかった。もう少しだけ生きることが出来る。だから大丈夫さ」
「聞こえマシタ?」
「あぁ。持ち主との約束らしい。先に壊れるのは無しだって。こんな時代だ。看取る役目を機械に任せる人間は多いさ……。……ヤス!!追加で油を持ってきてくれ!!!番号は……」
「3番やろお?分かっとるでえ」
「そうだ!コイツには3番が良い!頼むぜ!!」
「はいはあい」
外で聞いていたのがバレていたらしい。ヤスはこんなとき、少しだけ早足で油を取って来るのだ。
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