第3話

「よし、出来たぜ!修理完了だ!」

今日も機械を直す。

「あんたはまだ生きていられる。たとえあと少しの命だとしても……」


「それを全うさせる。見捨てたりなんかしないさ」


大きな機械は大きな体で、小さな機械は小さな体で。


ルノルドはたくさんの機械を修理してきた。


「こういう風に便利なのさ!」


250歳。彼の体はこのため……機械の修理のためにあるのだ。


「あんたは本来の姿がデカ過ぎるんやでえ」


「だっ……!はやく油持って来いって!ヤス!」





〜数ヶ月後〜


シャフマ辺境の村、快晴。

「ルノルドさんかい?今日も小屋にいると思うぞ」

黒い長髪をなびかせ、一人の女性がルノルドの小屋に向かう。

「……やっぱり、少なくなってるか」

小屋の前に運ばれてきた機械の数を確認し、ため息をつく。

「こんなに早く普及するなんて、予想外だったね」


「ん?アナディ?」


高い声。少年姿のルノルドが彼女を見つけた。


「おっと、オジサン。久し振りだね」


青い瞳、白い肌。美しい女性……目を細めて微笑むのは、アナディ・エル・レアンドロだ。ルノルドの親戚である。

「仕事が順調か見に来たんだが。……ダメそうだ」

「ダメなんてもんじゃないぜ……。だんだん機械たちが来なくなっちまった。どうなっている。あんたはストワード中央にいたんだろう?そこで何が起きている?」

「それが……」

「まあ、そんな大したことじゃあないだろうがね。今までだってたまにあったさ。災害が起きたとか、事件があったとかで人の生活が上手くまわらなくなったときに、」

「オジサマ、驚かないで聞いてくれ」


「壊れない機械が発明されたんだ」


「……は?」




「はあ!?!?なんだそれは!有り得ないだろう!」


ドスの効いた声。ルノルドは驚きのあまり大人の姿になってしまった。


「壊れない!?そんなわけがない!誇大広告だな!!」

「みんなそう思ってた!でも、発売されてからじわじわと人気を伸ばしていて……一年前はマニアしか使ってなかったんだけど、最近になって本当に壊れないって人気が出てきたんだ」

「一年そこらで壊れるか壊れないかがわかるものか!」

「耐久性が違うらしい。どんなに力を加えても壊れることがないんだ」

「……っ、俺は信じないぜ。そんなもの。あるわけがない。……まあ、話は分かった。どうせみんな壊れると気づくだろう。また修理の仕事が戻ってくるさ」

「僕もそう信じてるよ」


「おっ、アナディやあん」

「エリヤス!そうだ、僕、お土産を持ってきたんだ。ルノルドも食べようよ」

「……あぁ」



お土産リンゴを頬張るルノルドの顔は暗い。

(壊れない機械だと?)

このリンゴは食べなければいつかは腐ってしまう。

(永遠なんて無い。俺が機械を直すのは、永遠をつくるためではない)


(壊れない機械は、その意思はどうなるんだ……!)


自分が声を聞かなくてはいけない。自分にしかできないことなのだ。


「おい、ヤス!」

「なんやあ、ルノルド」

「俺はストワードへ向かう!」

「……」

「え!?お、オジサマ!?急に何を言っているんだ!?」

「ストワードへ行き、本当に壊れない機械があるのかを調べる!ずっとモヤモヤしているなんてごめんだぜ!」

「え……そ、そこまでかい!?」

「……はは、そうやろおなあ」

驚くアナディと穏やかなヤス。

「ルノにも譲れないもん、あるもんなあ」

「あぁ!あるさァ!!」

「ほむほむ。ほむほむやけどお……」


ヤスが眉を下げてふにゃりと笑う。


「今来てる仕事は、ちゃあんと終わらせるんやでえ」


「ぐっ……!わ、分かってるさァ!ま、俺のところに仕事が来る限りは壊れない機械は嘘だという証明になるだろうしな!」

「頑なに信じないんだな、オジサマは……」

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