第17話 染々 その8

 東京に戻るまで結構な時間がかかる。

 例の通り魔事件の詳細も少しずつ更新されているようだが、容疑者が広瀬Yであることは間違いないようだ。



 ここで、俺の頭の中にある疑問を整理していこうと思う。


 広瀬Yは交際中の赤堀MとI県のK市に旅行に行った、古い寺と赤堀の実家に寄ったと主張した。

 →地元駅前で二人が一緒にいた目撃証言無し。寺の住職も若いカップルが来た、との証言あるが広瀬と赤堀かの確証得られず(S寺に行ったとは広瀬の証言)。赤堀の母より広瀬との面会無しとの証言。


 広瀬Yは一週間前(当時)より赤堀Mと音信不通だと主張した。

 →赤堀Mは一度実家に帰った後、登山に行き事故死している。音信不通なのは遭難したためと思われるが。

 →一緒にI県K市までは言ったと証言している広瀬Yは、明かりの実家には顔を出してないが、赤掘が登山に行ったという事実を知らない。

 →S寺に行った後、赤堀と別れ、赤堀は一人実家、登山に行き、広瀬は東京に帰ったか。しかしそうなると、俺に赤堀の実家に行ったという証言と矛盾する。赤堀が一人実家に帰ったのを確認している、及び登山に同行している可能性もあり(登山が趣味など仮定する場合、通り魔事件における15人以上の襲撃における基礎体力面についての説明にはなる)。


 広瀬Yは勘違いをしたのか、嘘をついているのか?

 これは不明だ。だが。


 広瀬Yから送られてきた1件めのメール。風呂場の壁に顔が浮かび上がったとの証言。

 →確認したがこれは壁に描かれた絵。描いた人間は不明だが、広瀬か赤堀の可能性が高い。そしてこのようなものをわざわざ他人に主張してくるのは冷やかしか、この頃から何かしらの精神疾患の兆候か。



 そしてここからは、オカルト的思考方面に強くバイアスをかけている仮定の話だ。


 広瀬Yから送られてきた2件目のメール。

 最初の顔の後ろにもう一つの顔が浮かび上がった、それはMの顔だ。

 →自分らが撮影したスマホの画像にリアルな2つ目の顔が確認されたが、その後消失。さらに現場を確認したが2つめの顔は未確認。また、2件目のメールについても広瀬は自分が送ったわけではないと主張。当のメールは何故か消失している。

 広瀬は、後にではあるが世間を騒がせる傷害事件を起こしている真っ最中の人物だ。自身の発言等すでに随所に矛盾を抱えている。重度の精神疾患、もしくは違法薬物を常用している可能性もある。だが。

 →Mに対して後ろめたさ、強迫観念などを抱えている。その為に人の顔の絵の後ろにMの顔を見たのか(メール内の画像の変化の説明にはならないが)

 →広瀬が赤堀Mを山中で殺害した可能性。そこから生まれる強迫観念か。

 →メールを送ったのが広瀬以外。殺された赤堀Mが広瀬への報復として他者にメッセージを発信した(怪談話などでよくあるシュチュエーションを想像してもらいたい)。


 馬鹿らしいと思われるかもしれないが、この一連の流れだけを見るとそういう主張をする人物も出てくるから、一応書いた。念を押すがオカルト思考強めの解釈だ。



 あー、いったん休憩。

 俺は新幹線内の喫煙ルームに行って煙草を燻らせた。

 さてさて、今後のことを考えていると通路の方がうるさくなった。

 喧(かまびす)しいどっかのオバチャン達の話声。貴重な喫煙スペースなんだから、静かにしてくんねぇかな?

 廊下のほうをチラ見すると、うぉっと度肝を抜かれた。

 オバチャンかと思ったら、巨大なトラの顔が廊下歩いてきたのだ。もとい、巨大なトラの顔がプリントされた大阪系(?)のオバチャンである。

 無論、どんな服を着ようと自由だし、人様のファッションチェックなどどうでもいい。が、ああいった服はどこで買うのだろうか? シンプルな疑問ではある。あと人を驚かせるには優れた素材だな、とは思うかな。

 オバチャンは3人組で2番のオバチャンはどでかい豹の顔柄トレーナーだった。大阪弁に何やら大声でしゃべりながらこちら側に歩いてくる。そして3人目のオバチャン。動物柄ではなく、ド派手な真っ赤なジャケットを・・・。


「うぅ・・・」


 思わず声がこぼれた。真っ赤な大阪オバチャンサードに、ではない。


 思い出した。何故、忘れていた?!


 広瀬Yの部屋の台所スペースの壁にかけてあった、赤い羽織。

 見たときにかなりの違和感を覚えたはずだ! なのになぜ忘れた? 2回目の訪問の際は壁から消えていた、あの赤い羽織・・・。


 あれはS寺で住職に見せてもらった「悪太郎の伝承の赤い着物」と同じものではなかったのか?

 いや、馬鹿な。そんなことはありえるのか? 似て非なるもの、かもしれない。しかしなぜそんなものを広瀬が持っているのか? 偶然か? あの部屋では和服を収集しているような雰囲気もなく、1着だけ、しかも台所にわざわざ飾る偶然があるのか?!


 一瞬目の前が真っ暗になる。俺はオバチャン達を掻き分け座席に戻り、頭の中に駆け巡る怪奇な思考たちを順番にまとめていった。

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