第16話 染々 その7
「ニュース見ましたか?!」
いや、近くにテレビは無いし、スマホはたった今電話中だから使えないわけだが。
「N区で通り魔事件が起きたんです」
「ん?物騒だな。誰か巻き込まれたのか?」
「違うんです、通り魔の犯人が広瀬Yなんですよ!! 今逮捕されたってニュースがテレビで流れてて・・・。」
なんだと?! 両川との電話を切り上げ、スマホで事件を検索した。
「本日の正午過ぎ、東京N区駅前通りにて鈍器のようなものを持った女が次々と通行人を襲撃した。被害者は男女年齢問わず、現在確認されているところ15人ほどけが人が出ていて意識不明の重傷者の複数人おり、病院に運ばれている。身柄を確保された容疑者は、同地区に住む広瀬Y(21)という人物。広瀬容疑者は被害者の頭部を執拗に狙って凶器を振り回していたという目撃情報もあり、警察は怨恨の可能性も見て捜査している」
これががおおよその内容だった。
広瀬Yが通り魔?大通りを武器を振り回しながら駆け回った?ありえない。
そもそも広瀬は、鍛えぬいた屈強な肉体を持ち無尽蔵な体力を持ったような雰囲気の女じゃなかった。痩せたか細い女だ。いくら何かしらの凶器を持っていたところで、大人の男が数人いれば簡単に取り押さえることが出来るはずだ。小学校に侵入して児童だけを狙った犯行とかではないのだろう?
また、これは昔あった無差別通り魔事件ではあるのだが、犯行に及ぶ人間は自分をゲームか何かのキャラクターと勘違いしている節がある。武器を持って不意を突けば何人でも襲えると思い込んでいる点だ。スタミナが切れる。息が上がって動けなくなるんだ(現に俺が少し山道の石段登って息切れしてた)。ある通り魔の容疑者は犯行後に息が上がって動けなくなり、警察に取り押さえられている動画もあった。ボクサーや格闘技選手がフルラウンド戦えるのは、普段から走り込みなどで己を鍛え上げているから可能なのだ。この点から見ても体育会系にすら見えない広瀬が15人以上も襲撃できるほどの体力があるとは考えにくいのだが。
だが、事は起こってしまった・・・、ようだ。
赤堀Mの死は事件だ、と母親は言っていた。思い込みであろうとは思う。だが、この謎のタイミングで広瀬は事件を起こした。赤堀の死に広瀬が関わっているかもしれない。そんな考えが俺の頭の中にチラつくようになった。体力的な疑問がるとはいえ、広瀬は通り魔事件を起こすような異常な人間であることは確定しているからだ。そして、もうひとつ、頭の中にチラつく思考がある。・・・これは後述しよう。
・・・とにかく俺はミスを犯してしまったようだ。寺ではなく先に赤堀Mの家に行くべきだった。もしくは寺に行った際に、住職に赤堀と広瀬の画像を見せて寺に観光に来ていた人物かどうかの確認を取るべきだった。
もう一度住職に会いに行くべきか。時刻はすでに15時を回っている。本来は東京に戻るための時間を計算して駅前までに戻ってきているのだが、もう一度寺に行くには時間がかかりすぎる気がする。
とりあえず、駅前に止まっていたタクシーをつかまえた。
「あれ、お客さん?」
さっき乗せてもらったタクシーだった。これは話が早い。さっきの寺にもう一度行けるか相談してみる。
「うーん、行くのは簡単だがな。この辺の観光施設は大体3時か4時ぐらいに閉まっちまうよ。どうしてもと言うなら、明日とかに出直すしかないですね。」
やはりダメか。さらに続けた。
「しかし、人が居たんですか。珍しいですな、大体あそこの寺閉まってるんですけどね。」
例の思考が頭をよぎる。
俺は寺に行くのを諦め、東京に戻るために電車を乗り継ぎ新幹線に乗り込んだ。
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