第15話 染々 その6
赤堀Mの実家に着いた俺は、仏間に通された。
そこには仏壇が置いてあり、位牌と一緒に若い男の写真が飾られていた。この男の顔に見覚えがあった。
「息子は先日事故で亡くなりました。」
赤堀Mの母親は静かにそう告げた。
・・・・なんだと。すぐに言葉が出てこない。遺影の男は確に広瀬Yから見せてもらった画像の男だ。息子を電話に出さなかった、いや出せなかったのはすぐに察した。しかし、家にいる、という意味は死んで仏壇なり墓なりにいるという意味か。電話で伝えずにわざわざ家までこちを呼び出すとは。
我ながら動揺を隠せていなかったと思うが、亡くなった理由を尋ねてみた。
「二週間ほど前に、実家に帰ってきてまして。そのまま山に出かけて、渓谷の吊り橋からの転落事故で。ほかの登山されていた方が発見した時にはすでに・・・」
うつむき加減で今にも泣きそうだ。悪いとは思ったが、これでもライターの端くれ、性というものだ。まあ、世間様からマスゴミと叩かれそうな流れではあるが。
一応補足、後で地方新聞などで調べたが、吊り橋からの転落事故と警察は断定しており、遺体の損傷が激しく、赤堀Mと特定するのには時間がかかったそうだ。
広瀬Yの話では二人で旅行に行き、帰宅後音信不通となった、ということだったが。
赤堀母に了承を得て、質問を続けた。
「電話でもお尋ねしたことなのですが、息子さんのMさんは実家に帰った際、交際中の広瀬さんという方とご一緒だったと伺ってきたのですが、お会いになられましたか?」
「・・・息子は一人で帰ってきました。」
やっぱりな、と思った瞬間、
「息子は、息子はどうして死んだんでしょうか?!事故っ!警察は事故だと言っているけど信じられないんです!交際中の女って誰なんですか?知りませんよ、息子は一人でした!やっぱり息子は、息子は殺されたんじゃないでしょうか?そうなんでしょう?それを調べていらっしゃるんですよね?!」
そりゃあもう、どえりゃー剣幕で・・・って。いや、この時の空気、思い出してもキツイんですよ。赤堀母氏を馬鹿にしているのではなく。気を紛らわせるのに、茶化した文章突っ込んですみません・・・。そりゃ息子亡くせばキツイどころじゃないですね・・・。
話を少し整理する。
赤堀母氏は息子の死に疑問を抱いている。おそらく明確な根拠とかではなく。
そして、息子について話を聞きたいと電話をしてきた俺に対し、何かしら事件性を感じて調べている警察関係者、もしくはミステリーなどに出てくる探偵的なものをイメージしたのかもしれない。だから現地まで取材に行く説明を電話で聞いた母氏は電話ではなく、直接俺から何か情報が聞けるかもしれないと踏んで息子の死を隠し、自宅まで呼び出したということか。
もちろん、ただのフリーライターだということはきちんと説明したはずなのだが。
俺はしつこいぐらいに自分の身分を説明し、事件や警察などに関りがないと伝えた。
ただし、この件はもう少し調べるので事件性があるのであれば警察に通報するし、あらためて息子さんにかかわる情報があるのであれば連絡する旨を伝え、赤堀家を後にした。
にわかに、薄っすらとだが事件性が出てきたような気がする。その中心にいるのは広瀬Yだ。
しかし、俺は金田一耕助でも古畑任三郎でもない。事件解決などできない、出来るはずがない。事件だとすればそれはあくまでも警察の領分だ。だが赤堀Mの死についてはすでに事故死扱いとなっているが・・・。
実際の事件などと関わってしまうと、オカルト雑誌のネタとしては使えなくなってしまうな。
そんな心配をしているとスマホに電話が入った。編集部からだ。
「大変なんですよ!」
とやかましい声。両川からだった。
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