第14話 染々 その5

 住職への挨拶もそこそこに、俺は寺を後にした。


 まだ正午過ぎだ。昼飯を適当にして、この後は赤堀Mの実家を訪ねる予定だ。前日に電話連絡済みでアポは取れている。電話してわかったことだが、実は赤堀Mは実家にいるそうだ。もっとも電話対応したのは赤堀の母親で、本人に電話を替わってもらえず家まで来るようにと言われたのだ。

 広瀬Yの話との食い違いが気になるところだが、赤堀Mに会えばもう少し状況が整理出来るだろう。


 さて、ここからは住職より聞いた話「悪太郎の伝」を記す。一応住職の言をそのままではなく、それなりに分かりやすく、かつ俺なりの適当な注釈も入れておく。


 「悪太郎の伝」


 その昔(年代不明)、この地の村落に八郎太郎という染物職人の男がいた。(昔の染物には川など水源を利用することが多い。山間の村だが小さい川が現存する。)

 この八郎太郎、職人としての腕は確かなようだったが素行が悪く、村の女に手を出しては村民たちとのトラブルが絶えなかったそうだ。

 ある日、村の人妻に手を出した八郎太郎は、村の男たちに袋叩きにされ村八分にされたそうだ。(村八分とは特定の行事以外、村を追い出されること。よく殺されなかったな。)

 この対応に八郎太郎はキレたらしい。(概要しかわからないが、おおよそ八郎太郎が悪い気がする。)

 棍棒を片手に村の家という家のかめ(亀ではなく壺のようなもの。水道等無いため、生活用水などを貯める用と思われる。)をたたき割って歩いた。さらに染物の工房にあった染料などを入れてあるかめをすべてカチ割り、娘を攫って山に逃亡した。(逆切レ極まる。)

 村の男たちは山狩りを行い、山小屋の中にいた八郎太郎を発見した。

 村人たちは驚愕する。八郎太郎は娘を殺害し、その血を絞り出して着物に染め付ける作業をしていた。

 八郎太郎は棍棒を振り回し、村の男の何人かの頭をカチ割ったそうだが捕らえられ峡谷より打ち捨てられた。

 村人たちは八郎太郎のことを「悪八太」もしくは「悪太郎」と侮蔑の意味を込めて呼ぶようになった。(昔の日本史などでは暴れん坊的な素行の人物に悪という文字をつけて呼ぶことがあった。源頼朝の義兄、義平の悪源太など。)

 その後、村では大きな地震があり被害が出た。村人たちはこれを悪太郎の祟りと恐れ、悪太郎が染めていた赤い着物を寺に納め悪太郎の魂を鎮めたという。



 「そしてこれがその悪太郎の赤染と伝わる着物です」

 と、つづらから赤い着物を取り出して見せてくれた。


 んー、率直な感想としてはThe昔話という感じかな。血液で染めた赤い着物というのも、よく昔の幽霊画などで赤い塗料などが使われていて、そんなことを言われることがある。血液が赤いのは血液内に含まれる鉄分のせいだ。空気に触れることで酸化が始まり、黒く変色する。というわけで赤を発色させるには、ほかの塗料を使ったほうがいいわけだが、もちろん住職にはそんなこと言うわけはない。

 とはいえ、昔話といって侮っているわけじゃぁない。大昔に村で起こった事件、事故などが口伝によって変化を加えながら残っていたりするんだ。祟りを恐れた、供養をした、塔、塚、石碑を立てたみたいな下りは村人たちの後ろめたさが行動や文言に表れているんだろう。

 八郎太郎が悪太郎・・・、「悪に染まる」なんて言い回しもあるが。

 元染物職人の・・・、まあ、こんなものはダジャレ的に思考にすぎない。

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