第13話 染々 その4

 俺は早速、I県K市に来た。赤堀Mの失踪と広瀬氏が二人で行った古い寺の話が気になったからだ。


 駅前通りなのに信号がない。少々驚いたが観光客も含めて人が少ない、これが地方というものか。それでもなんとかタクシーをつかまえることが出来た。先ずは古い寺、S寺に向かうことにしよう。

「観光に来たんですか?」

 白髪交じりの壮年のタクシードライバーの男性におおよそ、そんな事を聞かれた。

 おおよそというのは方言が少々きつくて聞き取りづらかったからだ。それでもなんとかS寺についての話が聞けた。大体千年ぐらい前からこの地域に根付いている由緒正しき仏閣なのだそうだが、長い年月を得て寺の規模は縮小し、現在は本堂ぐらいしか残っていないそうだ。観光客も行政からの支援も少なく、ほそぼそとやっているとの事。

 ここで少し前に寺を訪れたカップルがいなかったかどうか尋ねたが、この方は見ていないそうだ。

 タクシーは林道途中で止まり、ここからは徒歩で山道を登っていかなければならない。

「最近も事故があったし、気ぃ付けてな」

 運転手さんとの別れ際にそのような言葉をいただいた。


 鬱蒼とした杉林の中の石階段を上る。本日は快晴、駅にも昼前に着いて移動は楽なモンかな、高を括っていたのだが・・・。高く伸びた杉の木の枝葉が空を覆いつくし、日光を遮っている。石段は湿気でじめつき、苔むしてる部分が多々ある。気をつけなければ転倒して大怪我するだろう。

 何より、石階段とは山道を登るのがキツイ。喫煙者ってやつはすぐに息が切れる、運動不足のせいもあるだろうが、年齢のせいだとは思いたくないな。

 寺が見えてきたな。古くて奥ゆかしい・・・、と言えなくもないが、痛みがところどころ目立つな。まあ、味がある、という解釈もできるが見たままボロいと言われかねない。観光客を誘致するにはもう一工夫が必要なとこかな。

 観光ポイントは外観を見て回るだけかな、などと考えつつ本堂に近づいて回ると正面扉が開いており、奥で住職と思われる人物が掃除をしていた。これはちょうどいい。俺は声をかけて、ご挨拶をした。

「観光ですか。これは珍しいですね」

 少し顔色の悪い、やせぎすの高齢の住職だった。

 本堂にあげていただき、世間話もそこそこに最近若いカップルが観光に来なかったかどうかを尋ねてみた。

「確かにお若い恋人同士の観光客がいらっしゃいました。ただこの寺は、縁結びのご利益などないものでね」

 というと立ち上がり、奥からつづらのようなものを持ってこられた。

「この様にただ古いだけの見どころのない寺でございます。ですのでせっかくですから、こちらの寺の宝物を見ていただきました。」

 住職がつづらを開ける。中からは鮮やかな赤い着物が取り出された。

「これは見事な・・・」

 俺も思わず声が出た。住職が続ける。

「こちらの着物とそれにまつわるお話・・・、悪太郎の伝を」


 住職が語る、宝物にまつわる伝説「悪太郎」の話が始まった。

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