第11話 染々 その2

 編集部宛に気になるメールが届いた。

 自宅の壁に人の顔のようなものが浮かび上がった。どうにかしてほしい、といった内容だった。メールには画像が添付されていたが、荒過ぎてよくわからん。言われてみれば顔のようにも見える、といった感じだ。


 本日は取材。都内のとあるマンション。依頼人はそこで一人暮らしをしている女子大生の広瀬Yという女だった。

 今時の若い娘の部屋にこんなオッサンが一人で乗り込む訳にはいかない。というわけで、オカルト雑誌編集部でバイトをしている両川という変な女に同行してもらった。

 4階の角部屋。インターホンを鳴らすと、すぐにドアが開いた。んん?扉の前で待っていたのか?

 そこには痩せぎすの女が立っていた。

「あ、どうもはじめまして。私は…」

 自己紹介と同行者の両川を紹介する。両川は高い声と妙なテンションで喋っているが、文字に起こしたくないので割愛する。

「広瀬といいます。本日はご足労いただきありがとうございます」

 少々陰鬱な雰囲気、といえばいいのだろうか。いや大人しめの方なのだろう。横の両川がうるさすぎるから、余計にそうみえるだけだろう。

 俺と両川はさっそく部屋の中へ上がらせていただいた。

 2DKのよく整理整頓され、一般的な女性の部屋といったところか。花が好きなのだろう。飾られた花々。花を指していない花瓶などが複数見受けられる。

 お茶などは断り、さっそく「顔が浮かび上がった」という場所へ案内していただく。

 目を剥いた。顔、ではなく通りかかったキッチンの壁に掛けてあった真っ赤な羽織にだ。羽織とは和服の上に着るものだな。真っ赤な、鮮やかな赤。部屋の趣向に合ってない、というかなんでこんな立派な羽織を台所のスペースの壁に掛けてあるんだ?

 物凄く気になるが、さて置き本題。例の顔は風呂場の壁にあるとの事。

 顔は風呂場の鏡の横のあたりにあった。拝見する。これは…、絵だな。何かの塗料を使って外部から描き込まれたものに間違いないだろう。そして描き込んだのは、部屋の主である広瀬氏の可能性が高い…。両川は何やらギャーギャー言ってるが割愛する。

「なるほどー、こちらですか」

 俺はスマホで写真を何枚か撮らせていただく。そして風呂場の入り口の左右下に、盛り塩をさせていただいた。

「これで大丈夫ですね。何か変化があるようでしたら、また連絡をお願いします」

 少し広瀬氏から話を聞く。一週間ぐらい前からあるとか、交際中の男性が同じぐらいの時期から姿を見せない、などの話が聞けた。交際中の男性の件は少し引っかかるが、これは門外漢である。

 一通りの話を終え、俺と両川は退室させていただいた。

「あんなんで大丈夫なんですかぁ?!」

 帰宅中、両川が聞いてきた。うるさい。

「いいんだよ。あれぐらいで。思い込みって奴には充分効く」

 我ながら本当に適当な対応だ。しかし、自称霊能者も同じような対応をするもんだ。

 壁に浮かび上がった顔は間違いなく、オカルトではなくかなりチープなガセネタだ。描き込んだのは広瀬氏本人、もしくは居なくなったという交際者であろう。

 しかし、ウチのオカルト雑誌はこれまたどチープな雑誌だ。ガチなオカルトネタかといえばそうではないが雑誌の雰囲気にふさわしいネタだ。そういう意味では使える!

 来月の紙面用の良きネタを得た、と喜んで帰ったが、事態はさらに進む事になった。

 翌日、スマホに広瀬氏から新たな報告メールが届いたのである。

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