第9話 凹々 その9(終)
その後、俺はタクシーで帰宅して翌日を迎えた。
色々ニュースを調べてみたが、K駅での何かしらの事件などは見つからなかった。
留守電にはBからのメッセージが入っていた。
「あら、ジャーナリストじゃなかったのかしら? 答え合わせを他人に求めるのね。」
だと。
あー、ハイハイ。わかりましたよ。やりますよ。元よりそのつもりだよ、ったく。
まず、川畑S子の携帯電話に掛けた。
「お掛けになった電話番号は…」と、きた。
続いて、川畑S子から貰った名刺にあった税理士事務所に電話をした。
「その様な従業員は、こちらでは居りません」との事。
伺った話によると、かれこれ20年以上同じ場所に事務所を構えているらしい。が、その名前の人物を雇った事は一度も無いそうだ。
川畑S子より名刺を貰った時に感じた違和感はこれだったのだろうか。いや、それだけで察する事など出来るはずがない。恐らくは夜の店で働いていそうな雰囲気を持った川畑S子から、税理士事務所という単語が出てきたので、そのギャップを感じただけだろう。
今度は名刺に載ってある住所を、パソコンの便利サイトでビューイングする。
そもそも存在しない住所だと判明した。地図で確認もしたが、その住所の番地は存在すらしない。
…あれか、夕方のニュースとかでやってる架空請求を行う詐欺グループのアジト的な感じか。
そんな訳で、現時点において川畑S子という存在を認識していのが、俺とBのみとなった。
怖い話とか怪談などで「そんな人いませんでしたよ」「そいつ●年前に死んでます」とか言われてオチがつくパターンは、勘弁してほしいな。
Bに電話をかける。数コールの後、応答があった。
軽く挨拶をし、早速本題に入った。
「例の、川畑S子の件なんだが…」
「どなたかしら?」
なんだと…。言葉を絞り出せないでいると
「ふふ、半分冗談よ。」
「俺をからかっているのか?」
少し間が開く。
「半分は本当のことよ。川畑S子とは偽名、そんな名前の人物は存在しないわ。だから私は知らないと言えるのよ」
Bは言葉を続けた。
「彼女の正体は不明。まったくもって謎。ただ間違いなく言えることは、人間社会にとって異端、完全なるイレギュラーな存在という事だけ。だから貴方に紹介したのよ。オカルトライターなんだから、イレギュラーによるマショウは貴方の得意分野ですよね。彼女の話をちゃんと聞いてあげたのかしら?」
…マショウ? イレギュラーという物言いも気になったが、マショウとはどういう意味だ? ひとまず事の決末を報告した。
「あの人、貴方の事を話したら凄く気にしていたからね。気に入って自分の中に取り込みたかったのかしら。自分自身だけ吸い込んじゃうなんて、慌てん坊さんね」
Bの声は笑っていた。川畑S子が何を考えていたのかは謎のままだったが、このBも謎だ。
これ以上、Bから聞き出せる事は無さそうだったので、いや聞いたところで煙に巻くだけだろうと判断し、電話を終えた。
結果として残ったのは、Bのなんらかの意図により俺は怪奇体験をした。という事実だけだ。
仮説の上に仮説を建てていく。いつか建てたものが、根本から簡単にひっくり返ってしまうから、こんな論法はよろしく無い。しかし、オカルトの考察なんぞ、結局これしか出来ない。科学的な考察により根拠を示したら、オカルトではなくなってしまう。
オカルトという不確かなもの、面白さとロマンで形成されなければ、都市伝説は成り立たないのだ。
マショウ。Bが言っていた謎の単語。「魔性の女」なんて言い方もあるが、今回はそういった趣旨では無いだろう。
悪魔の「魔」に現象の「象」、これで「魔象」とあてさせていただきたい。
俺は今回の魔象事件を簡単にまとめて、オカルト雑誌編集長に提出した。
少ないページでもいい。書かせて貰おうとしたところ「こんな記事よりもアダムスキーUFOの特集記事を書け」とのお達しだった。
後に。
雑誌にて「真夏の怪談スペシャル」という特集記事が組まれた。
そこに「K駅の怪」というタイトルで、短い記事を寄稿させて貰った。K駅に出るという、顔が凹んだ女の噂…。
そして、この話は忘れられた。
「凹々」~終
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