第5話 凹々 その5

 翌日、俺は自宅からBに電話をかけた。

 Bは川畑S子を俺に紹介してきた女だ。元々不可思議な話や現象にやたらと詳しい女で、以前から何度か取材をさせてもらった事がある。俺にとっては上客ってやつだ。

 何度かのコールの後に電話に出た。挨拶もそこそこに用件を切り出す。

「…ところで川畑S子のことなんだが」

「川畑S子さんの事ね」

 電話をしてくる事をわかっていた様な物言いだった。それなら話は早い。

「彼女のお話、よく聞いてあげて欲しいの」

「いや、いい難いんだが…。あの人は少し妙なんだよな。話が、ではなくあの人が、だ」

「そこがとても重要なの」

 正直なところ、川畑S子には少々危険な臭いがする。Bはそれがわかっているのだろうか。いつもそうなのだが、このBという女はやたらと含みのある物言いをするんだ。

 「彼女、私の知り合いにオカルト雑誌に記事を書くライターがいるって言ったら、とても興味津々だったの」

 んー、あー、すんげー文句言いたい…!

 しかし…、Bには今まで色々取材させてもらったし、今後も何かネタが貰えるかもしれない。彼女の機嫌を損ねるわけにはいかないなぁ…。

 すると、部屋のチャイムが鳴った。

 最近、ネットで買い物した記憶は無いが、こんな昼間に誰だ?ドアのスコープを覗いてみる。

 そこには歪んだ女の顔があった!

 うわっ、川畑S子だ!俺は驚きはしたが幸い声は出なかった。まだBとの電話中である。

 電話の向こうから「どうかしました」などとBの声が聞こえてくる。気のせいか、少し笑っている様な気もする。

 川畑S子はチャイムとドアのノックを連打し始めた…。うるせぇ!

 ひとまず部屋の奥へ行く。Bの声が聞こえづらいのと、現在進行形のこの状況をBにはまだ伝えたくは無い。

「とりあえず、来客があってね。川畑S子さんはしっかり取材をする。それで今回の件は終わりにする。それでいいですか?」

 文句はある、が。

「よろしくお願いします。オカルトライターさん。」と、うすら笑いの様な物言いで電話が切れた。

 やはり、Bは川畑S子の異常性はわかっているのだろう。それを承知で…、俺は遊ばれたのか?

 しかし、一度取材を引き受けた以上、客の機嫌を損ねず、取材を完遂仕切って仕事を終える。それがフリーとはいえ、俺の意地だ!

 この件は、取材を完全なものにして、Bを納得させてやる。それで終わりにしてやる。


 チャイムもドアもまだ連打されている。しまった、名刺を渡したのが失敗だったか。事務所兼自宅なんだよな…。

 何か声も聞こえる。「凹み女が毎日出る」という様な事を言っている。

 近所迷惑だからなんとかしなければならない。警察沙汰になっても困るが、ここでさっきスコープ越しに見た川畑S子の顔を思い出した。

 歪んだ顔。スコープに顔を近づけて過ぎだろ。かなり不気味だったな。

 逡巡していると、いきなり静かになった。もう一度スコープを確認する。

 川畑S子の姿は消えていた。ドラマや映画ならもう一回キシャーってきそうなもんだが、幸いそれはなかった。

 毎日出る、と言っていたな。前の話だと夕方以降と時間帯も具体的だった。

 まだ、その辺りに川畑S子が居るかもしれない。アレに次に会うのは、夕刻以降のK駅を取材してからの方がいいかな。確かな取材を行なって、事実関係を明確にするってのが、ジャーナリズムってもんだろうさ。

 俺はしばらく時間をあけてからK駅に向かった。

 

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