第4話 凹々 その4

 とりあえず近場のファミレスで一服を済ませてから、取材を始めた。

 ファミレスの店員から始め、駅周辺の店などから聞き込みを行った。

 この駅を利用している人物で、顔が特徴的な人物を見たことがあるか。という質問だ。

 これは特徴を明確にせず、答えをこちら側に引っ張り込まないようにする為である。あと俺が怪しい人物だと思われにくくするためだ。

 結果、化粧が濃すぎる女性、独創的すぎる髪型の男性、さらには変な服を着ているなど様々な回答を得ることができた。

 顔が凹んでいるという人物に関しては0件であった。

 一服中に少し調べたのだが、先天性、つまり生まれつき顔に凹みができる病気というのはあるらしい。ただしこれは顔の片側側面部に起こる疾患のようだ。川畑S子のいう顔面中央部の凹みとは異なる。

 また、皮膚のたるみ、むくみなどで凹む、というのもあるようだが、これは当人が気にするというレベルのもので、外部の人間が気付く、気になるというのは考え難いだろう。

 また後天的に事故などで顔面部を負傷して、その傷が目立っている人物の情報もなかった。

 現時点において「顔面が凹んでいる女が駅いた」と証言している人物は、川畑S子しかいない。

 俺はこの件をオカルト現象の可能性として最初に「口裂け女」の類似案件として疑った。

 口裂け女とは、大昔に小学生ぐらいの子供達の間で流行った都市伝説さ。

 夜塾の帰りなどで遅くなると、道端にマスクをした女が立っている。女はマスクを取ると口が耳ぐらいまで裂けていて、「アタシ綺麗?」などと言って脅かしてくるという話だ。

 これは当時の小学生達には自分の母親、学校の中年女教師など、彼らにとって「大人の女は怖い」という共通の意識があり、その共感を得ることによって爆破的に流行した。というのがカラクリだ。

 現在は教師の立場の弱体化したなど、現代の小学生にはまったく理解できないだろうなぁ。


 さて、今回の件はどうやら口裂け女ともジャンルは類似しないようだ。

 同じ系統として扱うなら、せめて嘘や錯覚でもいい目撃情報、噂話を聞いたなど、他者との共感されてある証言は欲しいところ。

 実在の人物を貶める与太話とも違う。

 川畑S子のみが語る「実話怪談」というところに止まっている。

 オカルト現象を取材する人間ではあるが、実話怪談を収集するのは少々趣が異なるなぁ。ま、実話怪談の作家さんが、川畑S子の話を取材して怪談本などに採用したら、その作家さんの評価が下がりそうな気はするけどね。

 そんな考えをまとめながら、駅入り口辺りを見て回っていると鏡があった。

 朝、出勤時間などに身だしなみを整えてる人がいたりする鏡だ。ここ以外にもほとんどの駅にある。しかしコレ、身だしなみチェックするのが本来の目的ではない。

 自殺防止用、が本来の目的なんだ。

 これからホームから線路に飛び込んで、走ってきた電車に突っ込む。悲惨だよ。

 んな事する前に、自分の顔を見てしっかり思い直せって意味さ。

 鏡を見ているとある目線に気がついた。後ろの方から俺の事を見ている奴がいる!

 振り返ると、そこには誰もいなかった。鏡に目線を戻すとさっきの顔も消えていた。


 顔は小さかったが、…あれは確かに川畑S子の顔だった。

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