第3話 凹々 その3
K駅は新宿まで、電車一本で行ける便利な街のようだ。大きな建造物は少ないが、人が多い。日曜の昼過ぎだけあって駅前の賑わいは上々だ。
当然、俺と川畑S子はタクシーなどを利用せずに電車でやってきたのだが。
電車の中で川畑S子は仕切りに俺に話しかけてきた。凹み女が恐ろしかった、どれだけ自分が心細かった、理解者がB(俺に川畑S子を紹介した人物)以外に出来て嬉しいなど、嬉々としてデカイ声で喋っていた。
いや、ほら電車の中で大声で会話するってのも問題なんだが、会話の内容もな…。今じゃねーだろ。
とはいえ、むげにも出来んし。適当な相づちと愛想笑いでお茶を濁したよ。
ひとまず駅に着いたことだし、次の段階に移ろうか。
「うちに寄って行きませんか?」
川畑S子がいきなりこんな事を言ってきた。「お茶をお出ししますので」と重ねてくる。例の如く、目蓋が見開いて瞬きをしているのかわからない表情だ。
何度でも言う。無下には出来ない!だが、K駅にきたのは取材のためだと、しっかり明確に説明し、丁寧に断る。
だが川畑S子は、なおも食い下がらずに誘ってくる。
なんだろう、この妙な感じは。なんだかわからないが、奇妙な不安が俺の頭をよぎった。
俺は一人でしっかり取材をしたい、という理由で説明し、名刺交換をして川畑S子に帰宅してもらう事になった。
川畑S子は何やら未練がましく、何度かこちらを見ていたが、自宅がある方向と思わしき雑踏の中に消えていった。
…何故、急に自宅に誘ってきたのか。何のつもりなのだろう。本来、女性に自宅に誘われるというイベントは男にとっては嬉しいイベントのような気もするのだが。
川畑S子から貰ってた、名刺に視線を落とす。そこには川畑S子の名前と勤めているであろう、税理士事務所の住所が書かれていた。
プライベートな付き合いはごめん被りたいなぁ。
それにしても。あの違和感のようなものは何だったのか。川畑S子の唐突な誘いの不自然さ?いや、違うな。川畑S子の顔の表情か?それも最初から感じてる違和感ではあるが、それでも無い気がする…。
ひとまずコンビニに入ってタバコを買った。
一服してから仕事に入ろうとおもったんだが、箱から一本取り出したところで「歩き煙草厳禁」の駅の看板が目に入った。
いやぁ、喫煙者には厳しい時代になったねえ。まったく…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます