第51話 文化祭ライブ、開幕




 俺たちの出番が来た。

 大葉さんは、白を基調とした衣装。

 前ボタンを止めた短いマントのようなコートの下の中は見えないけれど、細かくスワロフスキーが使われている。

 顔の上半分を覆う白い仮面は、新しいデザインだ。

 神崎先輩は、まるでメイド服だ。ただ、ドラムを操るからか、スカートの前は大きく開いていて、そこには黒のショートパンツから伸びるストッキングの細い足がしっかり見える。仮面は黒、右半分を隠す仕様だ。

 俺とゴリチョは、顔全体を隠すお揃いの黒い仮面に、執事のような黒い服。

 上着の胸元にはコサージュというのか、花のような飾りがあしらわれていて、少々恥ずかしい。

 袖回りはスッキリしていて、ギターやベースが弾きやすく考えられている。

 白の大葉さんと、黒の俺たち。

 全体を見ると、しっかり主役の大葉さんが目立っている。


 ……この衣装、一体いくらかかったのだろう。

 神崎先輩の、GhosTripゴーストリップへの愛が深すぎる。


GhosTripゴーストリップの動画配信、けっこう利益出てますのよ」


 そうなのか。バンド結成から半年しか経っていないけれど。

 ま、そこは後で話し合えばいい。

 今は、ミスなくライブを終えることだけを──


龍ノ瀬たつのせくん。た、楽しみましょうね」


 ──やられた。

 大葉さんは、震える声で俺を励ましてくれた。

 だから、俺はちょっとしたウソを吐く。


「大葉さん。俺たちは最高のバンドだ。今日も絶対に上手くいく」


 大葉さんなら、このウソに乗っかるだけの実力がある。

 そうなったとき、俺たちのバンドは本当に最高のバンドになり得る。

 少なくとも、俺はそう信じている。

 大葉さんは仮面の俺をじっと見つめて、力強く頷く。


「はいっ」

「──龍ノ瀬たつのせくん、そろそろお時間ですわ」


 ドラムのスティックをくるくる回す神崎先輩が、ニヤリと笑った。



 よっしゃ、行きますか。



 四人そろってステージに出る。

 おかしいな、客席側から見たら狭く質素なステージだと思ったのに、やけに広く感じる。

 思ったより狭く感じた経験は多いけど、こんなに広く感じたのは初めてだ。

 最初はイントロダクション、神崎先輩のドラムソロから始まる。

 この始め方も、すっかり定番になってきたな。

 けれど、ハロウィンナイトの時とは違う。

 十六小節を叩いたところでゴリチョのベースが合流する。

 さらに十六小節、俺のギターをカッティングで重ねる。

 そこから十六小節。


「みなさん、こんにちは。GhosTripゴーストリップです!」


 マイクを通した大葉さんの声が体育館を埋めた瞬間、大歓声が上がった。


 一曲目は、ポップなジャパニーズロックのコピー。

 難しい曲だけど、失敗することなく無事に盛り上がって終わる。


 二曲目は、少し落ち着いた曲だ。

 140程度のB.P.Mに、伸びやかな大葉さんのボーカルが戯れるように乗って、それをドラム、ベース、そして俺のギターが支える感覚。

 GhosTripゴーストリップを知っている観客が固まって観ているのか、客席の一角からはメンバーに歓声が飛ぶ。

 よく見ると、白崎がいた。

 てか、その周りは俺たちのクラスの連中だ。

 クラスの出し物はどうしたんだよ。


 俺は、けっこう余裕だった。

 少なくとも、その時までは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る