第48話 文化祭二日目02
中森先生が去った第二音楽室は、水を打ったように静かだった。
広い第二音楽室に、大葉さんとふたりきり。
先生が座っていた席にそのまま腰を下ろした大葉さんは、大きな荷物を抱えたまま黙って俯いている。
俺のほうも、何か話しかけようと考えるけれど、話す言葉が見つからない。
しかし、苦痛な沈黙ではない。
なんというか、空気が重くない。
ならば、自分のペースでいくか。
俺は持参したギターを出して、新しい弦を張っていく。
二本目の弦を張ったところで、大葉さんの視線を感じた。
俺は顔を上げて、大葉さんを見る。
すると大葉さんは、サッと顔を背けて視線を逃がす。
俺がギターに視線を戻して弦を張り始めると、また視線を感じた。
弦を巻くを止める。
相変わらず大葉さんの視線は、俺に向いているようだ。
サッと顔を上げてみる。
大葉さんもサッと顔を背ける。
なるほど。
大葉さんの意図はわからないが、俺と視線を合わせたくないようだ。
それならそれで良い。
残りの弦を淡々と張り終えた俺は、チューニングに取り掛かる。
ギターのチューニングは、今はスマホでも出来る。
が、それすら面倒な俺は、耳で聴いて合わせていく。
そんな感じで、チューニングも終了。
試しに弾いてみる。
うん、いい感じだ。
適当にカッティングを繰り返していると、大葉さんの視線が強くなる。
あれ、もしかして。
「ギター、興味ある?」
「そそそんな……でも」
「でも?」
「
大葉さんが、テレキャスをカッティングする光景を想像してみる。
ふむ。
「……かわいい、の間違いでは?」
「か、かわ……っ!」
大葉さんの顔は、あっという間に真っ赤になる。
あれ、感想間違えたたかな。でも。
「大葉さんは元々がかわいいから、ギターを弾いてもかわいいかなーと」
「ふにゃ、あんまり、言わないで、ください」
ふにゃ?
なんですかそれ、めちゃくちゃかわいいんですけど。
しかし、あまり言わないでと言われた手前、迂闊にかわいいと言うことはできない。
そこから、また無言の時間が始ま──ん?
廊下から声が聞こえる。
徐に扉を開くと、そこには見慣れた顔が。
「神崎先輩に、ゴリチョ……何やってんだ」
なぜか顔面を真っ赤にした神崎先輩と、なぜか大きなバッグを抱えたゴリチョがいた。
「入れなかったのです! あまりにも甘酸っぱくて、尊すぎて!」
「ほんと、じれったいよなー。ねえお嬢」
「お黙りゴリっ。あなたには青春の甘酸っぱい光景の尊さが理解できないのですか!」
ほんと仲良いな、ゴリチョと神崎先輩。
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