第3章 前哨戦ライブとオリジナル曲
第31話 二学期、始まる 〜ゴリーズ・ブートキャンプ
二学期の始業式を終えて教室に戻ると、みんな疲れた顔をしていた。
夏休み気分が抜けないのもある。
校長先生の話が長かったのもある。
が、いちばんの原因は、全校生徒が集まった体育館が暑すぎたことだろう。
残暑というには、猛暑過ぎるのだ。
その中で、ゴリチョは無駄に元気だった。
「鍛え方が違うんだよ」
ニカっと笑ってシャツをめくってチカラこぶを作るゴリチョ、の写真を俺はすかさずスマホで撮る。
「あっ何すんだよ、ウドっち!」
「もちろん神崎先輩に送る……送信完了」
「おいぃいい……あ、メッセきた、お嬢から」
ざまあみろ。
スマホを見ながら、処される! なんて叫ぶゴリチョを尻目に、大葉さんの席を見ると。
机に突っ伏したまま、動かない。
どうやら暑さで活動限界が来てしまったようだ。
大葉さん、俺以上に体力ないからなぁ。
夏祭りのライブの時も、最後けっこうふらふらだったし。
文化祭までこの暑さが続くとは思えないけど、少し体力がほしいところだな。
そういえば、神崎先輩は大丈夫なのだろうか。
あの人、大葉さん以上に華奢なんだよな。
思い立って、神崎先輩にメッセージで体力面を聞いてみる。
と、俊速で返ってきた返事は、
『あきまへん』
なぜか関西弁であった。
正午を待たずして、二学期初日はお開き、もとい終了となった。
さて、帰ってやりかけの作業でも、と考えつつ靴を履き替えるタイミングで、スマホが鳴動した。
ゴリチョからのメッセージだ。
『緊急ミーティング。駅前のサイデリヤに集合』
……なんだよ。
用件なら教室にいる間に言えよ。
イタリアンなファミリーレストラン「サイデリヤ」に入ると、一番奥の角席に、ゴリチョが陣取っていた。
そのテーブルには、不吉な色をした飲み物がある。
あんな色のジュース、どこのドリンクバーでもないぞ。いい
大葉さんの汗が少し引くのを待って、二人でゴリチョの待つ角席へ。
「よう、来たなご両人」
「なんの用だよ、ったく」
「ゴリチョくん、そのジュース……」
「これか。野菜ジュースをコーラで割った」
それだけで、こんなネガティブな色になるのか……
「美味いぞー、八百屋の息子のオレのイチオシだ」
はて、八百屋はコーラにも詳しいのか?
まあゴリチョの戯言はいい。それよりも、今日の用件を聞こうじゃないか。
「トレーニング、しようぜ!」
「断る。却下。暑い。断固拒否」
この猛暑の中で、ジムなんて行ってられるか。
「そうじゃなくて、体力をつけよう、って話だよ」
「なら最初からそう言えよゴリバカっチョ」
しかし、ゴリチョの言い分は俺もわかる。
大葉さんの体力のなさは、懸念材料になる。
「そうだな、体力つけると歌にも良い影響が」
「なに他人事みたいに言ってんだ。ウドっちも一緒にやるんだよ」
「え、俺も……?」
いや、いやいや。
俺はトレーニングなんて必要ない。
ギターもレスポールとかじゃないし。
一時間くらいなら、全然弾き続けられるぞ。
「甘い、完熟トマトより甘い!」
甘さを言うなら、メロンとかのほうがよかったのでは。
あれか、八百屋の息子っていう主張をしたかったのか。
「ということで、メニューを用意した」
わざわざA4のコピー用紙に印字されたものを、俺と大葉さんの真ん中にドンっと置く。
ドリンクバーのカルピスで和んでいた大葉さんは、驚いてその紙を見る。
「さっき、お嬢と考えたんだ」
「……お嬢といえば、神崎先輩は?」
「今日はジムに予約入れてたんだと」
え、神崎先輩って、鍛えてるの?
いや、でも考えたらそうか。
ドラム叩くには腕力や脚力が必要だし、夏祭りの強烈なバスドラ連打は鍛えていないと無理だ。
で。
肝心のトレーニング内容だが。
「これだけでいいのか……?」
「少なく見えて、けっこうキツいぞ」
「そう、なのか」
散歩 or ジョギング 三〇分。
腹筋 三〇回。
背筋 三〇回。
スクワット 三〇回。
これを二日に一日、一セットずつ。
「でもさ、一人だと挫折するだろ。だから、大葉さんとウドっちのペアでやるんだ」
「でも文化祭は十一月の初めだぞ。こんだけの運動で、それまでに体力つくのか」
「一番ダメなのが、初心者が短期間で高負荷をかけることなんだよ。体を壊す原因にしかならないからな」
なるほど。言われると理にかなってる気がする。
「別に、一日に全部やらなくてもいいぜ。今日は腹筋と背筋とスクワット、明日はジョギング、でもいい」
「筋力や体力をつけるってよりも、動くことに体を慣れさせるのが目的だからな」
トレーニング初日の朝。
「お、おはよ、ごじゃい、ます」
真っピンクのジャージに身を包んだ、舌ったらずな大葉さんが可愛かった。
早起きって、いいなぁ。
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