第2章 オバケさんバンド
第15話 オバケさんバンド、始動
(第2章開始)
夏休みに入って一週間。
初めてのバンドメンバー全員のミーティングの日がやってきた。
しかし、その場所が少々問題で。
『お嬢様のご友人の方々ですね、少々お待ちを』
俺と大葉さん、あと補欠のゴリチョが立つのは、隣町の豪邸の門の前だ。
住宅地の中で、この豪邸は四方を道路で囲まれている。
つまりこの区画は、すべて一軒の家、ということなのだが。
大きな洋風の門が、自動で開く。
その向こう、清楚なお嬢様が笑顔で手を振っている。
「こちらですわ、いらっしゃって」
お嬢様の後ろには、二階建ての建物が建っている。
「今日はこちらの離れでお茶会ですわ」
離れ、だと。
その離れですら、普通に豪華な二階建ての洋館な件。
なんだ、異世界か?
神崎お嬢様の厨二病って、マジもんだったのか!?
「ご案内します」
おお、本物のメイドさんだ。
いや、本物なのか?
年齢は俺たちの親くらい、か。
しかし綺麗な女性だな。
何処となく神崎お嬢様に似ている気がするけど、上流階級ってみんな似たような感じなのだろうか。
案内されたのは、洋館とは思えない部屋、いや、これはスタジオだ。
重い二重ドアの奥には、本格的な機材が見える。
その奥に、ガラスで区切られた防音ブースが見える。
ここならレコーディングも容易に出来るだろう。
「ここは、私専用のスタジオですの」
サラッと言ってのける神崎お嬢様には、まったく嫌味を感じない。
「皆様には、ここを自由に使っていただきますわ」
え、マジか。
めちゃくちゃ助かるんですけど。
貸しスタジオの料金は、高校生には正直いって高い。
それがタダになるとは……って、いいのか?
「親御さんは、許可してくれるんですか」
「問題ありませんわ」
お嬢様への問いかけに、背後から返事が返ってきた。
振り向くと、俺たちを案内してくれたメイドさんが立っていた。
「申し遅れました。桂香の母ですの」
メイドさん……え、お嬢様の母って。
「母は、コスプレが趣味ですの」
紛らわしいにも程がある。
こんなに立地条件が整ったコスプレなんて、見抜けるかっ。
「では皆様、ごゆるりと。立花さん、あとは任せますよ」
メイドコスプレの母親さんの後ろから、フリルのエプロンをつけた女の子がとたとたと走ってきた。
「た、たちゅばなですっ」
噛んだ。かみまみた、なのか?
「ふふ、アルバイトさんです」
もう、何にどう驚いて良いのやら。
なんなら今日のミーティングで話し合う内容すら、頭の中から飛んでしまった。
「さて、今日のミーティングで決めたいことだけど」
スタジオ内をひと通り見学させてもらった後、ようやくミーティングを開始できた。
今日の目的は、目標の共有と今後の活動方針を決めること。
それが固まれば、やることは決まっていく。
「すべてのパートが揃った今、本格的な活動が可能になった」
「だな」
「ですわね」
「……はい」
ん、どうした大葉さん。
緊張しているのか、どうも大葉さんは挙動不審だ。
「大葉さん」
ティーカップをテーブルに置いた神崎お嬢様は、大葉さんの前に立つ。
「私は、あなたの歌声に恋をしてしまったのです」
「こ、こ、こ……」
「ちょっと待ってくれ、神崎先輩」
「あら、どうしました」
「話が飛んでる」
ふむ、と顎に指を当てるお嬢様は、いきなり大葉さんを抱きしめた。
「ふぁ!?」
「私は、あなたの歌の
「あわ、はわわわ……」
「ですから、なんなりと、おっしゃってください、ね」
今、確信した。
このお嬢様、変だ。
だけど、悪い意味じゃない。
自分の「好き」に、正直なんだ。
「大葉さん、何かあるのなら言ってくれ」
「でも」
「ここには、大葉さんの味方しかいない。俺たちは、大葉さんのためにここにいる」
「ひゃい」
顔を真っ赤に染めた大葉さんは、またお嬢様に抱きしめられていた。
「あ、あの、私。もっと強くなりたい、です」
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