第7話 オバケさん復活
二日ぶりに登校した大葉さんは普段と変わりなかった。
メッセージでは風邪と言っていたが、真偽はわからない。
「大葉ちゃん、元気になったみたいでよかったねー」
「なぜそれを俺に言う」
隣の席の
クラスの様子も……
「オバケちゃん学校休んでどーしてたん?」
「未練なくなって成仏したかと思ったよー」
……変わりなく。
つか、少しは反撃しろよ。
大葉さんの性格では難しいだろうけれど。
「よっ、
「……おう」
この.チャラい奴はたしか、えーと。
「誰だっけ」
「ひっでぇな。冗談にしても面白くないぞ」
「いや、本当に分からないんだ。その、他人に興味なくて」
チャラい男子は額にタテ線が入る勢いで愕然として、うなだれる。
その様子を隣の茶町あずきは、楽しそうに見ている。
「……酒井。酒井コウスケ。できたら覚えてくれよ」
「わかったよ佐々木」
「酒井だっ」
なんだコイツ、ちょっと面白いかも。
茶町が机をバンバン叩いて笑うのを華麗にスルーして、佐々木改め酒井に向き直る。
「まあ、あれだ。よかったな、
「何が?」
「大葉さんが元気になって、に決まってんだろ」
決まっているのか。
つか、
「……お前、ヒマなの? 友だちいないの?」
特大ブーメランだが、俺は気にせず抉りにいく。
「いやぁ、オレって最近部活辞めただろ?」
「知らん」
「部活の奴らから嫌われちゃって」
「……それで同じくクラスの嫌われ者の俺に接近してきた、と」
「ビンゴ!」
ビンゴ! じゃねぇ。
「だってさー、軽音部の奴ら、口ばっかなんだぜ。嫌になるよ」
聞きもしないのに勝手に語る佐々木もとい酒井の弁は、バンドをやっていればよくある話だった。
「思いっきり練習出来ると思ったから入部したのに、他の奴らは喋ってばっかでさー」
わかる。やる気を削がれるよな。
前の、脱退したバンドの時もそうだった。
ミーティングと称して集まって音楽や女の子の話ばかり。
たまにスタジオ借りようと提案すれば、高いとかカラオケの方が女の子にモテるとか。
さらに、ライブ中に突然ギターを破壊されて。
挙句、ノリが悪いとかしょうもない理由でクビにされたっけ。
本当にマイナスしかない、無駄な時間だった。
「佐々木の担当してた楽器は?」
「酒井な。オレはベースだよ。ゴリゴリのチョッパーな」
「なるほど。それでゴリチョッパー、俺に接近した本当の理由は?」
「佐々木でもなくなった!?」
ガビーンという効果音が似合いそうなショック顔の酒井に、さらに続ける。
「仲間が欲しけりゃ楽器屋行ってメンバー募集のコルクボードにアドレス貼ってこいよ。ベースなら需要あるだろ」
「でもさ、
「は? なんでそれを」
「楽器屋でギターの弦買ってるの、見ちゃった♡」
ウザい。キモい。可愛くねぇ。
「な、
「断る。音を知らない奴と組みたくない」
「な、なら聴いてくれよ。な、頼むよ」
……何を焦っているんだコイツは。
考え始めたところで、朝のチャイムが鳴る。
「んじゃ
大葉さんが元気になったと思ったら、また問題が持ち込まれそうだなぁ。
「
その代表格が言うなよ。隣の変人、茶町あずき。
あと自分の席でサムズアップしてる田中、お前もだからな。
つか俺の周りって、お前らカップルしかいないんですけど。
ダブルで爆ぜろよ。
しかし。
あらためて大葉さんを観察してみると、中々にひどいな。
いじめ、とまではいかないかも知れないが、事あるごとに特定の女子たちからオバケ、オバケと揶揄われている。
動画のあの歌声は、抑圧された学校生活の鬱憤を晴らす手段なのかも知れない。
というか、そんなことは良い。
ただ、大葉さんの置かれた現状が、俺は気にいらない。
なにか大葉さんの現状を打破する手立てはないものか。
……いや、そんなことまで俺が口出しして良いのか?
ならば、今の俺のスタンスでできることを考えてみるか。
ぶっちゃけ、大葉さんの歌の実力を知らしめるのが一番手っ取り早いのだが、大葉さんはそれは望まないだろうな。
ならば……バンドか。
いいかもしれない。
ステージに味方が複数人いれば、大葉さんも人前で歌えるようになるかも知れない。
しかも同じステージに俺がいれば、奴らの攻撃を分散出来るかもしれない。
ゴリチョッパー酒井は絶対に誘わないけど。
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