第4話 人情警察官
俺は吉田さんよりは十センチほど背が高く百八十センチだ。細身ではあるが警察学校時代は逮捕術には自信があった。
一応、警官である以上は剣道、柔道、射撃訓練はして来た。しかし未だ大きな事件、犯人逮捕の機会に巡りあった事がない。
吉田さんはコンビニ強盗犯を二度現行犯逮捕した事があるそうだ。
一番の喜びは路上で恋人同士が喧嘩になり逆上した恋人の男が、別れるならお前を殺して死んでやると恋人にナイフを突きつけ立て篭もったのを、説得して交番に連れて行き仲直りさせたのが嬉しかったとか。
誰が通報したのか刑事が駆けつけた時には終っていた。交番は地域と密着しているからいち早く駆け付けられる利点がある。刑事は手柄を取り損ねたような顔したが、若い刑事は吉田さんに苦笑いして、ご苦労さまですと敬礼したとか。
ちょっと頭に血が登って発作的にやったものなら、出来れば犯罪者扱いしないで無罪放免してやるのも警察官としての義務だと吉田さんは思っている。
これもベテラン警官の貫禄か? 何も刑事だからだと言って交番勤務の警官の階級が下だという事はない。刑事でも吉田さんより下の階級の者はいくらでもいる。ただ与えられた使命があり交番勤務の警官は事件の捜査はしない。
テレビドラマの影響で、どうしても制服警官が格下に見えるがドラマの構成上その方が、都合がいいからだろう。それに吉田さんはベテラン警官でもあるし、同じ署の刑事も吉田さんには一目置いている。
出来ればこの程度のことで事件にして逮捕連行するのを避けたいと思っている。説得して分かってくれるなら事件に犯人扱いしたくない。その人柄に街の人々は吉田さんを人情おまわりさんと市民に慕われている。昨今、警察官の犯罪が目立ち中、吉田さんのような警官が必要だ。人情警官だからか分からないが一度も拳銃を使う機会かなかったそうだ。
と、吉田さんは其処までは教えてくれたが謎めいた部分も垣間見えてくる。
俺も突っ込んだ話は控えた。長く警察に勤めていれば思い出したくない出来事もあっただろう。ドラマと違い一警官が遭遇する事件が殆どないのが一般的だ。
それだけ日本は平和なのだろうか? その割にはテレビ、新聞の報道では毎日のように殺人事件が起きている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます