第17話 秋宮信の過去②ー勇者と魔王の生活
魔族の集落は思ったほど遠くなった。
むしろ、危ないぐらいに村に近い場所にあった。
「ありがとうございます」
「ありがとう、お兄さん」
「ああ、しかし、あまり人間の助言を聞きたくないと思うが人間の村の近くに魔族の集落を立てるのはお勧めしないぞ。できるなら、離れたほうがいい」
人類の中でとくに人間は魔族を嫌う。
一度見つかれば、楽には死ねない。
だからこそ、できるだけ離れた場所に集落を立てるべきだ。
「わかってはいるのですが、生活するには…………」
「そうか、まあ、事情はいくらでもあるよな。
とにかく、無事でよかった。
それじゃあ、俺はこれでってその前に魔族って確か契約魔法を使えたよな?」
「え、ええ、使えますけど」
「ここをばらしたら死ぬ契約をしとこうか。じゃないと安心できないだろ?」
「…………変な人ですね」
「変な人って魔族側なら考えるリスクだろ?」
契約魔法は一度、契約すれば死ぬまで守らなければならない。
守らなければ、ペナルティーが生じる。
…………さすがにこれぐらいしないと、無事には出られないだろうしな。
「その前にここでゆっくりしていったらどう?」
「あ、貴方様は!?」
「誰だ?」
後ろを振り返ると、そこには。
艶やかな灰色の髪、綺麗な真紅の瞳、すらっとした体は美しくモデルのような体型だ。
「お前は…………」
「同族を救ってくれた人をもてなすのは礼儀。さぁ、私についてきてください」
「なるほど、それじゃあ、遠慮なくもてなされようかな」
「そこの二人は家に帰るといい。これからこの人間と大事な話があるので」
「わ、わかりました。いくよ、ルータ」
「お兄さん、またね!」
無邪気に手を振るルータに俺も手を振り返した。
「久しぶりね、シン」
「…………久しぶりって一回しかあったことないだろ、魔王テラさん」
「あの出会いは今でも忘れられないよ。熱い眼差しで見つめあい私の初めてを奪った男」
「言い方が卑猥だな」
―――魔王テラ・カガリ。
こいつこそ、人類が打ち滅ぼそうとしている人類の敵だ。
昔、一度だけで勇者全員と力を合わせて戦い、負けた。
あの戦いは今でも覚えている。圧倒的敗北、勝ち目のない戦いでありながら、無謀に戦い、奇跡的に傷を負わせることができた激しい争い。
…………懐かしいな。
「それで何しに来た。シンは卑怯な真似をしない、誠実な勇者だと思っていたんだけど」
「たまたま襲われていたところを助けただけだ。ほら、俺って平等主義だから」
「まあいい。ついてきて、部屋に案内するから」
■□■
「なんで魔王様がこんな集落にいるんだ?魔王城があるのに」
「魔族を収めるものとして民の生活に寄り添うのは当然でしょ?それとも人間の王様はしないの?」
「俺が知る限り、そんなことをしているのは魔王様だけだな」
集落の中でも最も大きな屋敷に案内された俺はなぜか、魔王テラ・カガリの横を歩きながら部屋を案内されている。
「なぁ、なんで部屋を案内されたんだ」
「それはもちろん、しばらくここで暮らしてもらうためだけど?」
「はぁ!?なんで!!」
「なんでってちょうど、私たちもここ周辺にうろついている魔物を退治しようと思っていたし、嫌だった?」
「いや、人間を暮させちゃダメだろ。下手したら反感を買うぞ?」
魔族の集落に人間を住まわせるなんてバカのすることだ。
しかも、それを進めているのが魔王なのが、さらに問題だ。
「もちろん、シンにはご褒美を用意してる」
「ご、ご褒美?」
「私と1日、10分だけ模擬戦をする権利よ」
「しばらく、お世話になります!!」
こうして、勇者と魔王の生活が始まったのだった。
■□■
魔王は俺が認める好敵手。
ほとんどの戦いで負けたことがない俺だが、魔王だけはどうしても勝てるイメージが持てない。
そんな相手と10分も戦えるんだ。
残らないわけがない。
「本当に強くなったね、シン」
「当たり前だ。言っておくがまだ本気じゃないぞ」
「わかってる。私だってまだ本気じゃないしってもう時間ね」
「時間が過ぎるの早いな」
そんな感じが日常になり、基本、10分の魔王との模擬戦、その後は魔物狩り、夜はご飯を食べて魔王と雑談。
そんな毎日が続いた。
「お兄さん!今日も魔王様とお遊びするんですか?」
「お遊びするわけじゃないが、まあそんなところだ。それよりルータ、お母さんはどうしたんだ?」
「お母さんには内緒で来たんだ!それより、魔王様とお遊び終わったら、今度は私と遊んで!ね、いいでしょ!!」
「内緒ってそうだな…………じゃあお母さんにここに来たことを伝えたら、遊んでやる」
「え~~なんで!!」
ここで暮らして早半年。
なぜかルータにすごく懐かれた。
「お母さんにちゃんとここに来ることを伝えたら、遊んでやるから」
「ずるい!魔王様だけずるい、ずるい、ずるい!!」
「ずるいって…………」
「何がずるいのか、わからないな~~ね、シンくん」
「テラ、いつからいたんだよ」
後ろを振り返ると、いつもの姿のテラが立っていた。
「だって魔王様ばっか、お兄さんと遊んでるんだもん!私だって遊びたい!!」
「モテモテだね、シンくん」
テラはジト目で俺を見つめてきた。
「子供にモテてもしょうがないだろ」
「それもそうだね。ルータ、お母さんにちゃんと遊ぶことを伝えたら、シンくん貸してあげる」
「いつから、テラの物になったんだよ」
「本当に!」
「魔王の言葉に二言はないよ」
「わかった!すぐに伝えてくる!!」
颯爽と去っていくルータの後ろを姿を見て、テラはクスクスと笑った。
「子供っていいものだね」
「…………子供ほしいのか?」
俺は君に再戦を求めている 柊オレオン @Megumen
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