第16話 秋宮信の過去①ー魔族を助けた日
秋宮信はごく普通の高校生だった。
朝一に学校に登校し、寝て、お昼になれば一人、屋上でご飯を食べる。そんな普通の高校生だったが、ある日、クラスごと異世界に転移させられ、勇者となった。
それから訓練の日々が始まる。
みんな必死に訓練するが信だけは上る太陽を眺めていた。
なんでみんなが必至で訓練していたかというと、魔王を倒せなければ、元の世界には帰れないからだ。
そして、実践の日。
あっけなく勇者たちは負けた。
それもそのはずだ。今まで平和な世界に生きてきたのに、いきなり魔物や人と戦させられるんだ。訓練だけでなんとかなくわけがない。
そんな中、信は運悪くも魔族と出くわし、命の危機にさらされる。
しかし、そこで自前の頭と策略によって信は勝ってしまう。
『殺したぞ。魔族を殺したぞ』
人生で感じたことのない達成感と楽しさを感じた。
それからだった。
信が戦いに明け暮れるようになったのは。
最初は知恵を絞り、策略による勝ち筋を導き、途中で飽きたのか前線で戦うスタイルに切り替え、戦いに明け暮れた。
そして、いつのまにか六英雄の一人と呼ばれ、大英雄シン・アキミヤと世界で呼ばれるようになった。
それから退屈の日々が続く。敵は自分たちを前にすれば、逃げ去り、戦ったとしても張り合いがない。
気づけば、空を眺める時間が多くなっていた。
「…………きれいな青空だな」
「ここにいたんだ。探したよ、シン」
「アカネか。どうした?俺は戦場に出ないぞ。出たところで張り合いないからな」
「シンもすっかりこの世界に染まったね。まあ、私が言えた義理じゃないけど」
アカネはクスっと笑った後、気を取り直した。
「王様からしばらく、戦場に出なくていいって連絡を伝えに来たの。最近、魔族も攻めてこないし、それにそろそろ魔王討伐に向けて準備もしたいらしいから」
「つまり、さらに暇になるってことか」
「まさか、ここから出ないつもり?せっかくの休みなのに」
「…………やりたいことはないからな」
この時の信は言ってしまえば戦いに飢えていた。
自分の全力をぶつけられる相手と戦いたい、周りを気にせず暴れたい。そんな気持ちが大きかったのだ。
「昔みたいに困ってる人でも助けてあげたら?シン、人助け好きでしょ?」
「…………そうだな。それもいいかもな」
昔は戦略で敵を倒すやり方をしていた。
その時はどうしても仲間という存在が必要不可欠でよく仲間を作りに人助けをしていた。
…………どうせだし、ボランティアでもするか。
「よし、魔王討伐までしばらくそれで暇をつぶすかな」
「人助けで暇つぶしって聞いたことないけど」
こうして、魔王との決戦までの間、世界各地を回って人助けを始めた。
これもまた大英雄シン・アキミヤの名が広がった一因でもあった。
■□■
そして、ある日、魔物に襲われている一般人を助けたのだが。
「魔族か」
「あ…………あ」
子ずれの魔族。片方は母親で、もう片方は小さな女の子だった。
…………どうして、こんなところに魔族が。
とある村で魔物が出没しているというから、討伐しにいったところ、たまたま襲われていたので助けたら、なんと魔族。
普通なら報告すべきところだが。
「あ、安心してくれ。決して君たちを傷つけないから。だから、その…………早く離れたほうがいい」
「殺さないのですか?私たちは魔族ですよ?」
「だって君たち戦場に出てないだろ?ってもしかして、帰り道がわからない?となると、どうしようか…………」
このままほっておくのは心の良心が痛む。
「いえ、帰り道はわかます。ただ足が…………」
「あっ、なるほど」
足を怪我していたのだ。
「回復魔法は使えないし、しょうがない。俺がおんぶしていくよ」
「え、でも」
「このままじゃあ、格好の餌だからな。さぁ」
俺は背を向けておんぶする姿勢をとるが、親子の二人は少し戸惑っていた。
「ふん、たしかに人間に助けられるのも嫌だよな」
このままでは置いていくしかなくなるが、どうしたものかな。
「お母さん、このお兄さんを信じていいと思う」
「ルータ…………わかった。お願いしてもいいですか?」
「…………ああ、任せておけ」
こうして、信は魔族の親子二人を背負って魔族の集落近くまで運んだのだった。
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