第15話 記憶の欠落
勇者ミツバ・カガリたちが出発し、サイクルにはほとんどの人がいなくなった。
そんな中、一人の男が冒険者ギルドに訪れた。
「…………誰もいないのか」
周りを見渡しているのはシン・アキミヤ。昔、六英雄として魔王と戦った英雄の一人。
昨日、いろいろとあり寝ることで整理をつけようとしたところ結局1日ずっと寝てしまった
「起きたら、誰もいないし、一体何があったんだ?」
「やっと来たか、まったく」
「んっ!?ってゲイルか」
いつもの場所で座っていたのはゲイルだった。
「ほかの冒険者なら勇者様と一緒に魔族たちのもとに向かったぞ。なんでも作戦を変更して、魔族を迎え撃つとか」
「…………どういうことだ?」
「ふっ、つまりだ。ついに人類と魔族との全面戦争。それが始まろうとしているんだ」
「そうか」
魔族が第一防衛線を踏み越えた時点でこうなることはわかっていた。
でも、たしか作戦はサイクルで迎え撃つ方針だったはずだ。
なのに、どうして攻めるような戦い方に切り替えたんだ?
「それより何しに来たんだよ。とっくに街のみんなは避難して、多分、ここにいるのは俺とお前だけだ」
「俺が寝ているうちにいろいろあったみたいだな。それじゃあ、俺も離れるとするか」
「ちょっと待てよ。シン、昨日のガキはどうした?」
「…………チグサのことか。それなら一昨日の夜に別れた」
そう告げた俺は踵を返して、冒険者ギルドを出ようとすると。
「待て待て、もう少し俺と話そうぜ、シン。これが最後になるかもしれねぇからよ」
「最後?」
俺は足を止めてゲイルのほうへと振り返った。
「昨日、お前が寝ている間に世界の情勢は一気に変わった。なにせ、大々的に魔王が復活したことが発表されたからだ」
「んっ!?それは本当なのか」
「ああ、何なら見るか。ほら、これを見ろよ」
ゲイルから渡される一枚の紙。
その内容は魔王の復活したことを宣言した内容だった。
しかもカルノア王国の国王がそれを事実だと認めている文言もある。
「…………そんな」
その時、シンの中では一昨日の出来事が浮かび上がった。
そして、ある憶測が確信に変わった。
…………そうか、やっぱり思い出したんだな、チグサ。魔王の記憶を。
「おそらく、この戦いは勇者と魔王の戦いになる。132年前と同じ、六英雄と魔王の戦いの再現。このままいけば、どうなるだろうな」
「…………勝てるわけがない。勇者一人で魔王に立ち向かうなんて無謀だ」
俺たち六英雄と魔王が戦った時だって、一人でもかけていたら勝てないほどに強かったんだ。
しかも、今の魔王チグサはきっと先代魔王より強い。
…………このままいけば、全滅する。
「くぅ…………くそ!」
「どこへ行く気だ。お前ひとりが言ったところで何も変わらないぞ。それどころか、聖勇武器を持たない大英雄シン・アキミヤであればなおさらだ」
「それでも!…………待て、なんでゲイルがそれを」
俺の正体を知っている人はほぼいない。
それこそ、チグサ以外にいるはずがない。
「そろそろ気づこうぜ、シン。どうして、違和感に気づかない」
「何を言っているんだ」
「はぁ…………もう時間がないんだ。正直に言うぞ、お前、どこまで覚えている」
「覚えてる?何をだ」
「魔王を倒す前の記憶だ。振り返ってみろ、魔王城に突入する前とか、苦痛な訓練を送った日々とかな。ほらほら、思い出してみん」
「そんなこと急に言われてもな。え~と…………」
ゲイルの言うとおりに俺は昔のことを思い出そうと振り返ってみた。
魔王と戦った記憶は鮮明に覚えていて、それから。
それから…………。
あれ?それから何があったんだっけ?
ふと気づいた。自分の記憶に穴があることを。正確には魔王城に突入する前からの記憶がほとんどないことに。
「シン、お前の記憶は穴だらけのはずだ。そうだろ?」
「どういうことだ、ゲイル。お前、何か知ってるのか」
「お前がもっと早く気づいていれば、チグサもまだ引き返せたかもしれねぇのにな。だがこれもまた運命ってやつだ」
「…………俺が六英雄であること。そしてチグサが魔王だってことも全部知ってたのか」
「ああ、そしてシンの記憶が穴だらけのことも全部知ってたぜ」
いくら思い出そうにも魔王城に突入する前の記憶がほとんどのない。それこそ一番最初に召喚された記憶とかはあるが、そのあとの記憶はもちろんない。
どうして、今まで気づかなかったんだ。
「シン、お前は知ったほうがいい。魔王との戦いに決着がつき、そして最後、魔力の暴発による爆発に巻き込まれた後のことをな」
「ゲイル、お前は何者だ」
「それチグサにも言われたな。まあ、それに関してはこの記憶を見ればわかる。さぁ、俺の手を取りな。そうすれば、欠落した記憶が取り戻せるし、魔力暴走によって爆発に巻き込まれた後のことを知ることができる」
ゲイルは右手を差し出した。
「正直、半分ぐらいは信じられないんだが…………記憶に欠落があるのは確かだ。いいだろう、その口車に乗ってやる」
そして、シンは強くゲイルの右手を握りしめた。
「それでこそ、相棒だ。秋宮信」
「え?」
その瞬間、ぷつっと意識が途切れたのだった。
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