第14話 魔王チグサ・カガリ、そして勇者ミツバ・シズリ
魔王として生まれ落ちたとき、私は魔族に囲まれながら生まれた。
鼻につく瘴気、みんなが私を興味深く見つめてくる。
そんな同族に対して私は何も思わなかった。
それから私が魔王の転生体であり、次の魔王であることを知る。
でも、その時の記憶はなく、覚えているのは前も顔もその姿も知らない誰かに会いたいって気持ちだけ。
だから、私は心の赴くままに行動した。
その結果があの場から離れることだった。
「魔王様、準備は整いました。指示を下されば、いつでもサイクルに攻め込むことができます」
「ありがとう。でもまだです」
ある日を境に少しずつ記憶が戻るようになった。
それはある一人の人間ぽい人、シンくんと出会ってからだ。
最初は断片的だったけど、少しずつ記憶が繋がっていき。
…………全てを思い出したんです。
先代魔王の記憶、思い出、六英雄との戦い、そして大切な人。
「私は魔王としての務めを果たす。それが私の生まれた理由だから」
「魔王様…………」
「やるなら徹底的に。勇者ミツバは私が殺す」
チグサに迷いはない。
もう、記憶がないころのチグサもいない。
今ここにいるのは先代魔王の記憶を持つ魔王チグサ・カガリなのだ。
「我々はどこまでも魔王様についていきます」
魔族たちは彼女の前で跪き、忠誠を現した。
「忠誠心が厚いことね」
「んっ!?マーリ、帰ってきたのか」
「仕事を果たしたからね、グール。これでもうサイクルで活動する必要もない。あとは第二防衛線を占領するだけ」
先代魔王の参謀グール。彼もまたマーリに並ぶ魔族の一人。
「簡単に言うな。先代魔王様が死んでから100年近く経つ。サイクルにいる勇者ミツバもかなりの実力をつけているはずだ。それこそ、あの六英雄と同等の実力を持っているかもしれん」
「そうかもだけど、私たちには魔王様がいるから大丈夫。そうでしょ?」
「慢心は油断に繋がる。警戒しておいて損はないはずだが」
「私は警戒しすぎッて言ってるのよ。わからない?」
バチバチになるグールとマーリを見てチグサは冷たい瞳でにらみつける。
「ケンカならよそでやってください」
「も、申し訳ございません、魔王様!!」
「本当にもはや奴隷ね、グール」
「貴様、魔王様の前だぞ!!」
「いい加減にしてください、二人共。今ここで消されたいのですか?」
魔王の圧に二人は空気を飲み込んだ。
「グール、あなたもいつでも動けるよう前線で待機してください。いいですね?」
「は、はっ!魔王様の逢瀬のままに」
グールが立ち去り、マーリとチグサの二人っきりになった。
「かわいい帽子ですね。誰からのプレゼントですか?」
「私の大切の人からです」
「やっぱり、あなたは何も変わっていませんね。それで私は何をすれば?」
「…………マーリ、あなたは私に殴る権利があります。なぜ、怒らないんですか?」
魔王様のその言葉にマーリはただニコニコとしながら答えた。
「魔王様、世の中何が正しいかなんてわからないものです。ですから、先代魔王が下した決断に私は何も思っていません」
「それでも、私は…………」
「魔王様、もう100年以上の前の話です。お気になさらず、それよりご命令を」
「…………わかりました」
チグサはマーリの前に立ち、命令を下した。
「マーリ、あなたは後方で待機していてください。
なにがあろうと決して介入しないように」
「なにがあろうとですか?」
「…………」
「魔王様の逢瀬のままに」
無言を肯定ととらえたマーリは跪つき、そう告げたのだった。
■□■
勇者ミツバたちがサイクルに来て、1日が経った。
「ミツバ様、準備は整いました」
「ありがとう、ガーラくん」
ガーラが率いる騎士団、そしてサイクルを守るために依頼を受けた冒険者たちが勇者ミツバの後ろに控えていた。
「魔族たちはまだ動きは見せていないと報告を受けていますが」
「関係ないよ。私たちは進む。
前に進んで、魔族を率いる魔王を倒す。そのためにもみんなの協力が必要不可欠」
勇者ミツバはゆっくりと深呼吸をして後ろを振り返った。
「みんな、まずは急な作戦変更の中、応じてくれてありがとう、と感謝の言葉を贈りたい。おかげで立った半日で出発できる。本当にありがとう」
勇者ミツバの礼儀正しい姿勢と敬意の言葉に騎士団のメンバー、そして冒険者たちは声を上げた。
「知っての通り、魔王の復活が大々的に発表され、世界は混乱に包まれている。もしかしたら、今回進軍している魔族たちの中に魔王がいる可能性だってある。
でも心配しないで。
今、ここには勇者ミツバ・シズリがいる。
そして優秀で頼りになる仲間がいる。
みんなで力を合わせれば絶対に倒せる!
だから、みんな私についてきて!
私と一緒にこの街、サイクルを、そして世界を守ろう!!」
「「「おーーーっ!!!」」」
勇者ミツバの言葉は冒険者と騎士団たちの心をたきつけた。
そして彼女は背を向けて、聖勇武器を天へと掲げる。
その姿はまるでかつての六英雄の背を思わせた。
「さぁ、みんな行くよ!!」
こうして、騎士団と冒険者たちを率いる勇者ミツバは魔族たちのもとへと出発したのだった。
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