第12話 勇者ミツバ一行がサイクル来訪

 先代魔王の右腕マーリが去ると結界が解かれ、俺は宿に戻った。


 すると。



「くぅ、やっぱり、こういうことかよ」



 ベットで寝ていたはずのチグサはいなかった。



「俺をチグサを切り離し、注意を引いている間にチグサと接触する。たく、考えればすぐにわかっただろうが」



 ベットに深く腰掛けるシンは溜息を吐きながら天井を見つめる。



「いや、そもそも大きなおせっかいだったかもな。何がチグサの力になれないだろうか、だよ。

なにが彼女の願いを叶えることはできないだろうか、だよ。

今の俺には前のような力もないのに」



 周りを見れば、特に荒らされた様子はない。

 おそらく、自ら魔族についていったのだろう。


 ということは、考えられるのは一つ。

 魔王の記憶を取り戻した。


 これ以外に考えられない。



「よし、今日は寝て、気持ちに整理をつけよう。うん、そうしよう」



 こうして、シンはもやもやしたままベットでふて寝するのだった。



■□■


 

 次の日、冒険者ギルド内で大きな騒ぎを生んだ。

 それはゲイルが話していた通り、南東方向の第一防衛線が突破されたという情報、その仕業が魔族であること。


 そして、魔王の復活を大々的に発表した。


 これはサイクルだけでなく、全冒険者ギルドに張り出されたことで世界全体が騒ぎ始めた。



「まさか、ここまでするとはな。こりゃあ、王様も魔族と全面戦争でもする気だな」


「ちょっとゲイルさん。仕事してくださいよ。こっちは冒険者さんたちの問い合わせですごいことになってるんですから」


「そうだろうな。だが俺にも仕事があってよ。無理だ」


「どう見ても暇そうなんですけど」


「待ってるのさ。あいつを」



 世界各地の冒険者ギルドも大パニック。とくにサイクルは、逃げる者や進軍してくる魔族を迎え撃つ依頼にやる気を出す冒険者も増え大混乱状態に陥った。


 そんな中、カルノア王国の勇者とその騎士団がいち早くサイクルに到着したのだった。



「懐かしい。ね、ガーラくん」


「私はここに足を踏み入れたことがほとんどありませんので、なんとも」


「そうだった。ここはね、私がまだ勇者として間もないころにお世話になった場所で…………あれ?」


「とくに思い出はないようですね」


「…………ガーラくん。早速だけど、サイクルを収める最高責任者に会いに行きましょう。大事なお話があるのでね」



 勇者ミツバ率いるガーラ騎士団はサイクルを収める最高責任者に会うため、サイクルの中心地にある豪邸へと向かった。



「ミツバ様はこうなることを予想していましたか?」


「そうね。正直に言うなら、予想外。というか、魔王が復活ことに私もびっくりだよ。本当に平和は長くは続かないとはこのこと」


「…………もし、今回の魔族の進軍の中に魔王がいた場合、ミツバ様は」



 ガーラが何かを言うとしたとき、それにかぶせて。



「安心して、ガーラくん。最悪、私のすべてをかけて、進軍は止めて見せるから。だから、ガーラくんは私を信じてついてきて。いいね?」


「わかりました」


「さて、そろそろ着くから、気を引き締めてよね」



 豪邸に到着するとサイクルの最高峰、バック自ら迎えに上がり、会談室へと案内された。



「バックさん。すでに話は聞き及んでいるかもしれませんが、早くても明後日には戦場となります。ですので、物資と食料の協力をしてほしいのですが」


「もちろん、喜んで協力いたします!なにせ、相手は魔族!油断なりませんからな」


「それはよかったです。それに伴い住民の避難についてですが」


「はい、すでに避難の準備は進めておりまして、明後日には冒険者以外全員、避難できるかと」


「そうですか。それはよかったです。それで、いつから魔族と繋がっていたのですか?」



 ミツバの言葉にバックはドキッと体を震わせた。



「南東方向の第一、第二防衛線の総括管理者はバックさん、あなたですよね?なのに、突破されてからこちらに情報が届くまで、不自然なタイムラグがありました。説明願いますか?」



 防衛線の統括管理者は方角に定められた第一防衛線の管理者が務めるのが当たり前だ。そして、何かあれば、すぐに知らせることが義務つけられている。


 だというのに、突破されてからカルノア王国に届くまでの時間、その間に広まる噂。


 普通ならもっと早く報告することができたはず。


 そうすれば、第一防衛線が突破された直後から行動できたし、準備する時間も確保できた。それにサイクルで迎え撃つなんて守りに徹した戦い方をする必要もなかった。



「私が魔族と繋がっている?そんなバカな!私を疑うというのですか、ミツバ様!」


「話を聞いておられましたか、バックさん。まずはさっきの



 可愛らしい笑顔とは裏腹に圧を感じたバックはつばを飲み込み、ゆっくりとしゃべり始めた。



「ぐぅ…………たしかに私は総括管理者ですが、第一防衛線の管理のほとんどを第一防衛線の管理者に任せていたので。

報告するまでにラグが生じるのは当たり前のことかと。

これでよろしいですかな」


「納得のいく答えをありがとうございます。…………


「はっ!」


「なぁ、何をする!!」



 ガーラはバックを取り押さえ、魔法を唱えた。



「アーク…………ミツバ様、この男の精神はすでに魔族によって汚染されています」


「やっぱりね。ことの状況は私が伝えるからこの男を牢獄に」


「わかりました」


「待て!なんのことだ!私にはさっぱり…………」


「魔族にくだった人類の恥さらしが、黙ってついてこい!!」


「ひぃ!?」



 聖騎士ガーラとその部下たちはバックを引きつって会談室を後にした。


 そして、ただ一人、勇者ミツバだけが会談室に残り、唯一ある窓から街並みを覗き見る。



「ここまで魔族の匂いがプンプン匂うなんてね…………なんだが、嫌な予感がするよ」

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