第11話 先代魔王の右腕

 俺は死なない体を手に入れた半面、本来の力を使えなくなった。それこそ、勇者のみが使える聖勇武器もだ。


 おかげで魔力の制限を強いられ、戦うさえも気を遣う羽目になった。


 だが、完全に使えなくなったわけじゃない。ただ反動が体に耐え切れず、気絶する程度だ。



「ん?急に雰囲気が…………」



 シンを中心に周りがゆがむほどの魔力圧。それは目の前の男も感じ取る。



「勇技…………」



 剣を鞘に収め、目の前の敵を睨みつけると、男の体は小刻みに震え始めた。



「なぁ!?この俺がビビってる?こんなガキに?ありえねぇ、ありえねぇ!!」



 男もまた膨大な魔力を解き放つ。

 それは嵐のように荒ぶり、男の目は真っ赤に充血し、血の涙を流した。



「いいぜぇ。俺の最高火力の魔法で木っ端微塵にしてやる!!」


「んっ!?、ガーファ!ここでそんな魔法使ったら、結界が」


「知るかよ!!」



 ガーファは聞き取れないほどの高速詠唱を行い、右手に多重魔法陣が形成される。

 そして、たった2秒で詠唱を終えた。



「ふぅ~灰となって消えろ!アフリート・バウル!!」



 真紅に染まる高密度の炎がシンに荒ぶりながら迫る。

 だが、シンは決して動じず、ただ一人、ガーファだけを視界に捉えていた。


 その瞬間、歪みを生み出すほどの魔力が銀色に変わり剣へと集約する。


 …………いつもそうだった。いつも信用できるのはこのひと振りだけ。


 ぼぼ近接、よける時間も剣を引き抜く時間もない距離で放たれた高位魔法。

 普通なら引き抜く前に魔法で焼死にするだろう。だが、勇者であるシンならば、何の問題もなかった。



魔絶まぜつ!」



 ――勇技・魔絶。

 対魔王に向けて生み出された絶対魔法断絶の技。


 この技の前ではあらゆる魔法が断たれる。


 

「へぇ?」



 腑抜けた声が漏らした。


 高位魔法、アフリート・バウルはあらゆる物を燃やし尽くす獄炎。騎士や聖騎士ではほとんど防ぐことができず、一時期、勇者を苦しめた魔法でもある。


 だがガーファの目に映るのは。


 アフリート・バウルが一瞬で搔き消え。



「ありえねぇぇぇぇぇぇぇえええええええ!!」



 瞬く間に迫る銀に輝く一閃によってガーファの体は切り裂かれた。



「はぁはぁはぁはぁ…………くぅ」



 そこでシンは膝をついた。

 

 反動はそこまで大きくはない。だが、体力はかなり持っていかれた。

 それにもう一つ予想外のことも起きた。



「周りの奴らをまとめてやったつもりなんだがな。お前、何者だ」



 ガーファと同時に生き残った周りの輩も勇技・魔絶で切ったつもりだった。なのに、ただ一人、シンの目の前で堂々と立っている輩がいた。



「だから言ったのに。加勢しよかって…………はぁ、ガーファのバカ」


「む、無視かよ」


「…………ふん。しかし、まさか勇者が使っていた技、勇技を使えるなんて、やっぱり私の予想はあっていたみたい。ね、英雄様」


「んっ!?」


「まあいいや。目的は達したし、それじゃあね」


「ちょっ、待てよ!!」



 踵を返して、立ち去ろうとする彼女に俺は声をかけた。



「まだいろいろ聞きたいことがあるんだが」


「…………聖勇武器を持たないあなたじゃ、私を殺せないよ」


「戦うつもりはないんだが、どうして俺の正体を知っている」


「簡単な話だよ。同じ名前を名乗り、そして勇者しか使えない技を使っていれば、誰だってわかるもの。そうでしょ?」



 当然でしょ?といった感じで答えるが。

 シンは納得のいかない表情を浮かべ、それを見た彼女はため息を吐いた。



「はぁ、私はマーリ。先代魔王の右腕だった魔族の一人。これで理解してもらえる?六英雄シン・アキミヤ」


「…………マーリ!?」



 その名は知っている。

 彼女の言う通り、先代魔王の右腕で六英雄である僕たちと死闘を繰り広げた魔族の一人。その実力は俺たちに匹敵する。



「さっき、目的は達したって言ったな。まさか!?」


「私の個人の目的はあなたをおびき寄せること。すべては魔王様のため」


「そういうことか。ここにいた全員、お前の操り人形だったってことか」


「魔族という種族は生まれながら高い魔力と瘴気を帯びている。それは人々に害を及ぼすほどに。それを隠せる魔族はほとんどいません。ですから、手ごろの組織に属する魔法使いの精神を操り、手伝ってもらったんです。おかげで簡単に魔王様を見つけることができました」



 魔族の生まれながらにして瘴気を放ち、それは人々に害を及ぼし、殺してしまうため、隠すことは容易じゃない。


 だが先代魔王の右腕なら簡単にできるだろう。



「ふふ、正直、大英雄と呼ばれたあなたと戦うの無謀だと思っていたんですよ。だって私は132年前の大戦を知っていますから。でも、相当弱くなられたみたいですね」



 ぎりっ。


 歯ぎしりを立てるシンもそれはよくわかっていた。



「バイバイ、英雄様。お元気で」



 マーリは踵を返し、その場を去っていったのだった。



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