第6話 二日酔い
「君はまず、冒険者じゃない。理由は単純だ。
冒険者ならまず、軽装で森の中では出歩かない。
最低でも胸を守る防具はつけるはずだし、それが常識だ。そして、君を追っていた相手。魔法使いは貴重だし、お金がかかる。しかも近接戦闘を得意とする魔法使いだったし、その状況を
チラッとチグサを覗くとフード越しでもわかるほどに汗を滝のように流していた。
それを見て俺は、わっかりやすっ!と思った。
「さらに、魔王という単語。君はその言葉に反応していた。その観点から俺は君が魔王の後継者、または娘、孫、なのかもしれないと考えた。うわさも流れているし、信ぴょう性は十分にあると思うが」
「…………」
「だんまりか。まあ、そこまで言いたくないのなら、もういい」
「え?」
「人には言いたくないことの一つや二つはある。俺だって…………あるしな。悪かった、無理に聞き出そうとして」
正直、言うと今すぐにでも真実を聞きたいのが本音だ。
だって、どう見ても、魔王が復活した、という噂と関係がないわけがないからだ。それに煙のないところに噂は立たないというし、絶対に何かを知っている。
でも、それを無理に聞き出すのは違う。俺にも秘密はあるわけだし、たとえ、相手が魔族であろうと尊重するべきだ。
「そろそろ開店時間になるな。チグサは今から冒険者ギルドに行く。お前はどうする?」
その問いかけにチグサは俯きながら黙り込んだ。
だが、その数秒後、こちらを向いて。
「ねぇ、シンくん。もし、もしもだよ。私が魔王って言ったら、信じる?」
フードを脱がし、そう告げた。
その言葉はもう自分が魔王ですと言っているようなものだ。
だが、チグサの目はまっすぐで噓をついているようには見えないし、容姿が似ていることからも、その可能性が高いと俺自身思っていた。
「だと思ったよ」
自慢ありげな表情でそう答えると、チグサは目を輝かせながら。
「…………やっぱり、シンくんは変な人です。えへへ」
チグサはなぜか、笑った。しかも、意味わからないことを口にして。
変な人?俺は至って真面目な冒険者なんですが、と思った。
「まあいいや、詳しい話は依頼をこなしながらにしよう」
しかし、俺は心の底では喜んでいた。
だって、いるのだから。目の前に、求めていた魔王が。
■□■
冒険者ギルドに朝一に訪れると、いつも通り誰もおらず、出てきたのは二日酔いのゲイルだった。
「よぉ、昨日は楽しかったな」
「ゲイルの無駄話はいいから。いつもの依頼を頼む」
「まったく、二日酔いの俺をいたわる気持ちもないのかよぉ。まあいいかって隣のガキは誰だ?まさか、ナンパしてきたのか?」
チグサを見て、ゲイルはニヤニヤしながらからかってきた。
「その減らず口、今すぐ縫い付けてやろうか?」
「じょ、冗談だっつうの。まったく、冗談が通じねぇな。…………まあ、面倒ごとだけは避けろよな」
「…………肝に銘じておく」
ゲイルは決してバカではないが、酒癖はすごく悪い。きっと俺が帰った後も酒を浴びるほど飲んだのだろう。
フラフラしながら受付の裏方に行くゲイル。
10分ぐらいで出てきて、依頼の紙を何枚か机に置いた。
「ほら、いつも通りの依頼だ。さっさと持ってどっか行ってくれ。俺は二日酔いで頭が痛いんだ」
「そんなの知るか。というか、仕事があるのに飲むお前が悪いんだろうが」
「けっ、ガキにはわからねぇだろうな。とにかく、さっさとガキつれていけ」
「ああ、わかったよ。いくぞ、チグサ」
「え、あ、うん」
俺はチグサを連れて、森の中へと足を運んだのだった。
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