第5話 なぜ、追われていた?
魔法使いと聖騎士の違いはただ一つだ。
魔力を魔法として発現させるか、もしくは魔力そのものを操作し、武器を強化させるかだ。
「
剣先に魔力を集中させると、握りしめられている剣が銀色に輝き始め、襲い掛かってくる魔法使いたちが足を止める。
「な、なんだこの光は!?」
「ま、眩しい!!」
「まさか、この光!?お前ら、すぐにここから離脱――」
仕切っていた男が何かを察したのか、すぐにその場から離脱するように命令するが、すでに手遅れだった。
なぜなら、シンが剣に魔力を通した時点で、全員、彼の間合いだからだ。
「
鈍い音が鳴り、騒がしかった声が鳴りやんだ。
「…………目、開けていいぞ」
チグサはゆっくりと目を開くと、取り囲んでいた魔法使いは泡を吹いて気絶していた。
「な、なにがあったの?」
「ちょっと懲らしめてやっただけだ。それより早くここから離れるぞ。こんなところを見られたら、牢屋行きだからな」
シンはチグサを連れてその場から離れたのだった。
■□■
「なんとか、逃げ切れたけど、どうしよう」
「ご、ごめんなさい。私のせいで」
「あ、いや…………謝るなよ。勝手に助けたのはこっだし。まあ、相手は思ったより根が深そうだけど」
魔法使いを雇う時点で、相手は相当な金持ちだ。
今は逃げられても、明日の夜にまたチグサは狙われるだろう。
「なぁ、答えたくないなら答えなくていいが、なんで追われてたんだ?」
「…………そ、それは」
チグサは言いたくなさげな表情で視線をそらした。
「追われてる理由ってもしかして、魔王と関係しているのか?」
「な、なんでそれを!!あっ!?」
チグサを顔を見たとき、似てると思った。
艶やかな灰色の髪に、綺麗な真紅の瞳。その容姿はまるで魔王そのもの。
一瞬、目の前にあの時の魔法がいるのかと錯覚するほど、瓜二つだ。
ぐぅ~~~~。
「うん?なんだ、今の音は…………」
チグサのほうへと視線を向けると、顔を真っ赤にしながらお腹を抑えていた。
「そうか、もう朝か」
気がつけば、太陽が昇り始めていた。
「と、とりあえず、朝ごはん食べるか」
「は、はいぃ」
とりあえず、朝ご飯をとるためにミカさんが働いているお店に足を運んだ。
「あ、今日は早いね、シンく…………え」
バリン!とミカさんが珍しくお皿を割っていた。
「こ、ここは?」
「ああ、よくここで朝ごはん食べてるんだよ。ミカさん、今日は二人分頼む。料金は俺が払うから、お金は…………ってミカさん?」
「あ、ああああああ、シンくんが女の子を持ち帰ってきたぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ちょっとまてぇぇ!!!!」
ミカさんは大きく動揺した。
「シンくんが、お姉ちゃんっ子のシンくんが」
「全然、お姉ちゃんっ子じゃないけど、誤解するな。持ち帰ってきたわけじゃないから!たまたま知り合いと鉢合わせて、一緒に朝ごはん食べようって話なっただけだから!!」
もちろん、これは噓だが、まさかミカさんがここまで動揺するなんて、予想外だ。
「そうだよな。チグサ!」
「は、はいぃ!そうでしゅっ!べ、ベロ嚙んだ」
フードを被って全然顔見えないけど、なんか可愛い。
「ぐすぅん!シンくん、今日はお赤飯ね」
「もういい加減してくれよ、ミカさん」
「ふふ、まあまあ、そんな怖い表情しないで。え~と、チグサちゃんって名前なんだね。かわいいねぇ、どう?私の妹に」
「ミカさん、早く朝ご飯をお願いしてもいいですかね?あと、チグサが怖がっているので、適切な距離、開けてもらいます?」
ミカさんの下心にチグサはそっと俺の後ろに隠れていた。
「もう、お姉ちゃんに対して失礼だと思うけど。まあ、でもチグサちゃんに嫌われたくないし、ちょっと待っててね」
ミカさんはすぐに朝食の準備を始め、俺とチグサは近くの椅子に向かい合って座った。
「ミカさんは変だけど、いざとなったら頼れる人だから、その…………嫌がらないであげてくれ」
「別に嫌がってないよ。ただちょっとびっくりしただけ」
「…………フードは脱がないのか?」
「できれば、脱ぎたくない」
フードが深くかぶりなおすチグサは、本当に見られたくないのだと伝わってきた。
「シンくん、チグサちゃん、朝ごはんだよ~~~ゆっくり食べてね」
「ありがとう、ミカさん」
「シンくんが私にお礼を…………ああ、子は目を離したすきに成長していくんだね」
「大げさだろ」
「まあ、とにかくチグサちゃん、ゆっくりしていってね」
「あ、はい!」
朝ご飯を机に置いていくとミカさんはいつも通り仕事に戻っていった。
「優しいお姉さんだね」
「黙っていれば、それなりにいい人なんだけどな。とにかく、まずは腹ごしらえだ。お腹が空いてたら、何もできないからな。さぁ、今日は俺のおごり、しっかり食べろよ」
「あ、ありがとう、シンくん。いただきます」
チグサは出された朝ご飯を一口食べた。
すると、動きが止まった。
「ち、チグサ?」
「お、おいしい!」
と言いながらチグサはパクパクと食べていく。
「ごちそうさまでした」
「はや」
「こんなにおいしいごはん、初めて食べた」
フードをかぶっていて表情までわからないが笑顔を浮かべていることはわかる。
それぐらいおいしかったのだろう。
「ここの朝食、安くて不味いで有名なんだけど…………ここに来るまで一体、何食べてたんだよ。まぁいいか、俺も食べよ」
こうして、俺はいつものように不味い朝ご飯を食べ終えた。
「まだ、開店まで時間あるな。よし、チグサ、さっそく本題に入らせてもらうぞ。
…………どうして追われていたんだ?」
今、ここには俺とチグサの二人っきり。ミカさんは開店前の準備で裏の倉庫だし、特に情報が洩れる心配はない。
しかし、チグサは視線をそらして、黙った。
「言いたくないか。まあ、そうだよな…………よし、じゃあ、今からいうことは全部ひとりごと、ただの憶測だ」
俺はここで、なぜチグサが追われていたのかの憶測を話し始めた。
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